「じゃあ明日は10時にホグズミード集合ね?」

花のように可愛らしい笑みを浮かべて、彼女はそう言った。人混みはあまり好きではなかったが、可愛いなまえのためならデートをしようじゃないか。僕は了解と応えて彼女の額にキスを落とし、そのあとはお互い寮に帰ってすぐに寝た。そう、寝たはずだった。0時には確実に。

「………僕としたことが。」

時計を見て僕は愕然とした。普段公私ともに絶対に遅刻をしない僕が初めて寝坊したのがよりによって何故今日なんだろう。アラームは5分おきに鳴るようにセットされてはいたが、全く聞こえなかったらしい。解除されていなくまだ鳴りっぱなしだった。だけど先に支度をしないと。待ち合わせ時間が10時だっていうのに今がまさに10時。姿あらわしを使うにしても、どう頑張っても30分は遅刻する。しかし姿あらわしを使えば魔法省にもばれるし校長からうるさく言われてしまうだろうから普通に、公の手法で現地に行くしかない。急いで顔を洗い服を着替えて髪を整えていた最中、やけに頭に鳴り響くアラームに苛立ちを覚えた。


アラームが僕を急かす

今になってよく聞こえるアラームを乱暴に止めて舌打ちをする。慌てて寮を飛び出して僕は柄にもなく走りはじめた。もうなまえはとっくに着いているだろう、寒い中待っていやしないだろうか、頼むからどこか暖かい店で待っててくれよと祈りながら人混みをかきわけて待ち合わせ先に向かうと、遠目に赤いコートを来た女の子が見えた。僕の直感が、あれはなまえであることを告げる。時計台の下で反対方向を見ている女の子にザクザクと近付いていき、自分がしていたマフラーを頭を覆うようにしてかけてやると、驚いた表情で振り向いた後直ぐに嬉しそうな笑顔で「リドル!」と彼女が抱きついてきたのを柔らかく抱き留める。なまえの小さな身体はすっかり冷えてしまっていた。

「遅れてごめんなまえ…。」
「ううん、人混み苦手なのに私の我が儘に付き合ってくれてありがとう。来てくれただけで嬉しいよ。」

鼻の頭をほんのりと赤くしたなまえはにこにこと笑みを浮かべている。こんなに待たせたのに僕を責めもしない、どこまでも優しい彼女。僕はなまえの手をとり、まずは身体を暖めよう、とカフェに入った。不規則に埋まっている席のうち空いているところになまえを座らせスープをもらいに行く。

「やあリドル、珍しいね、君も来てたのか。」
「アブラクサス?」

注文を待っているとブロンドの髪の男が女連れで話しかけてきた。誰かと思えばいつも一緒にいるアブラクサス・マルフォイだ。隣にいるのは同じ寮の、確かアブラクサスと同じ、一つ上の女。

「私、席とってるわね。」
「ああ頼んだよ。」

そう言って僕にも微笑み、彼女は店の奥の方へと歩いて行った。アブラクサスは、なかなか美人だろうと誇らしげに目配せしてくる。

「確かに綺麗だな。」
「くす…猫かぶりじゃないリドルが素直にそんなこと言うなんてなまえが聞いたら怒るぞ。」
「…否定はしない。」

なまえの怒った顔が想像できて僕はだらしなく口元を緩めた。きっと頬を膨らませてリドルの馬鹿だのスケベだのぶーたれるんだろう。幸せそうだな、とアブラクサスが笑うので僕はまあなと応えて、二人分のエスプレッソを買いなまえが座る席を探した。

「ありがとう。」
「あったまるだろ。」
「うん。」

温かいカップを差し出し椅子に座ると、おいしいー、と満面の笑みがなまえからこぼれ落ちる。その笑顔を見てるだけで僕はなんだか温かかった。今日はどこに行きたいんだ、と問えばハニーデュークスでチョコレートが買いたいと、財布を出してどれくらい買えるかの考案をしだすなまえは昔と変わらない。孤児院にいた頃も、お金を貯めてはこっそりチョコレートを買いに施設を抜け出していてそれに付き合わされていたのを思い出した。一度、ばれて酷く叱られたこともある。だけどそれほど悪いことをしたと思わなかったのは、きっと隣にいたなまえが今と同じようににこにこ笑っていたからだろう。

「どうしたのリドル、なんか今日は機嫌がいいね。」
「そうか?」
「うん、いつもはホグズミードに来たら気分悪そうにしてるのに。」
「ふ、だとしたら今日気分がいいのはなまえのせいだな。」
「私の?」

小首をかしげ、もしかしてリドルチョコレート狙ってるの?あげないよ自分で買ってね、と財布を隠すなまえがやっぱり可愛くて、僕は笑いが止まらなかった。いつもと違う僕に、なまえは終始頭の上にクエスチョンマークを浮かべていたけど。




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