「誕生日には毎年違うコスモスが欲しい。」
「―リドル、どうしたんだい?頭でもうった?」
「僕じゃない、なまえだ。」

至極不機嫌そうに、だが万更でもなさそうに喉を鳴らすリドルに、成る程と頷くアブラクサス。話を聞くと、もとより付き合っていると言ってもおかしくない二人だったのだがつい先日、ようやく丸く収まったようで正式に付き合いはじめて最初の誕生日だからリドルとしては何をあげようか迷っていたらしく、思い切って本人にさり気なく聞いてみたところ「毎年違う種類のコスモスとか欲しいなあ。」と言われてしまったらしい。既に毎年のクリスマスに花を贈っているリドルにとっては代わり映えのないプレゼントになってしまう。花が好きななまえだからこその返答に、少しだけ頭を悩まされていた。

「これから何十年一緒にいると思っているんだあいつ。」
「はは、毎年違う種類なら、一回りしたらまた最初から渡せばいいじゃないか。」
「それはわかってる。指輪とかもっと別のものを欲しがると思ってたよ。」
「とか言って、もう決めてるんだろう?今年は何の品種をあげるんだい?」
「……シーシェル。」

リドルがむすっとした表情で杖を振りかざすと、コスモスが一輪宙に浮かぶ。アブラクサスはおもしろそうに笑い、そのコスモスを手に取った。

「リドル、花がよく似合うよ。」
「…アブラクサス、君にだけは言われたくないね。」
「なあに?なんの話??」

リドルの後ろからひょこりと現れた桜銀の髪をした少女は、アブラクサスが持つコスモスに目を向けて嬉しそうに笑った。

「可愛い!私コスモスも大好きなの!」

いい匂い、とコスモスに顔を近付けて香りを楽しんでいるなまえはこれもらってもいい?とブロンドの髪の青年に問いかけるが、彼は柔らかく笑い、リドルに聞いてごらんと、返答した。

「リドル、これ欲しい。」
「駄目だ。」
「え〜、なんで?」
「なんでも。ほら、もう遅いんだから寝たら。」

リドルは立ち上がって女子寮へ帰るように、なまえの肩を抱いた。むくれたような表情になるなまえの額にキスを落とすと渋々といった様子で寮に戻って行くのを見届け振り返ればアブラクサスが愉しそうににやにやと笑っていたのでリドルは何事もなかったように再びソファーに座った。

「リドルはなまえにだけは甘いよな。」
「…どういう意味だ。」
「なまえには本物のリドルということさ。ファンの子達にはなまえとのことは言ってあるのかい?」
「いや。言えばあいつがまた酷い目にあう。」
「ほーら。」
「…………。寝る。」

リドルはこれ以上話せばきっと一晩中この女たらしにからかわれて終わると思い、男子寮に戻って行った。
翌日、いつものように授業を受け1日を終えて談話室でスリザリン生がリドルを囲んで話をしている中遠くからその光景を見つめていたなまえはちらりと時計を見る。針はもう23時を差していたが明日が授業がないせいか話は終わりそうにない。いつものことではあるが女生徒達がリドルにベタベタしている様子が、今日は一層気になって仕方なかった。

「はぁ…」
「溜息はよくないよなまえ。」
「アビィ…」

うなだれるなまえの肩をぽんとたたいてアブラクサスはにこりと笑う。なまえはほっとしたような顔でアブラクサスの隣に並び、リドルを見つめた。

「リドル…まだ話してるね。」
「リドルはリドルで大変だ。上辺だけしか見てない奴らの相手をしないといけない。ああしておかないとなまえがまた酷い目にあうしね。」
「……。」

リドルがあんな風に取り巻きと群れるのは自分の為もあるのだということはなまえもよくわかっていた。彼がそうしてくれているおかげで、一時期よりは嫌がらせが減った。酷過ぎた嫌がらせが僅かに軽減しただけではあるが、それでも彼の厚意が素直に嬉しい。だが、適当なところで話を切り上げてあしらうのも上手なはずなのに今日に限ってリドルはにこやかに(もちろん猫かぶりだが)話を聞いている。なまえとしては0時丁度に誕生日をリドルと一緒に迎えたかったのだが、今夜は無理そうだと判断したのか苦笑いして隣のアブラクサスに声をかけた。

「私もう寝るね。」
「なまえ…」

アブラクサスがなまえの腕を掴んだとき、気分が高まったのか女生徒の一人がリドルの膝に手を置き身体を寄せて耳元で何か囁いているのが二人の視界に飛び込んできた。なんてタイミングの悪い―アブラクサスがそう思った刹那、なまえが手を振り払い談話室を飛び出して外に出て行ってしまった。その様子を見ていたリドルは立ち上がりアブラクサスと視線をまじわせる。

「なまえ―。」
「リドル?」
「どうしたの?」
「―今日はもう皆寝よう。良い週末を。」

リドルらしからぬ切り上げ方に、あの男も焦ることがあるんだなとアブラクサスは遠巻きに笑う。皆が寮に入って行ったのを見届けるとすぐになまえの後を追いかけた。だが既に城内は暗いし先生方に万が一見つかればスリザリンが減点される。一体どこから探そうか―そう思った時、寮を出てすぐの階段にまさかなまえが居たのでリドルは安堵し声をかけた。

「なまえ。」
「―…なに。」
「案外近くにいたんだな。」
「…………悪い?」
「いや、探す手間が省けた。」

隣に腰をおろすとなまえは少しだけリドルから離れる。それにむっとしたリドルは強引になまえの顎を引き寄せてこちらをむかせた。きゅっと口を結びお世辞でも晴れやかな顔をしてはいない。

「……ファン達の相手をしなくていいの?」
「なまえが怒って出て行ったのを僕が放っておくと思うかい?」
「……別に怒ってないよ。」

怒ってないならその顔はなんだとリドルは意地を張るなまえに呆れる。頭では理解しようとしても感情がついていかない背伸びをしたなまえに口元が緩んでしまい、それを悟られないようにリドルは視線をそらした。

「ただ…ちょっと妬けちゃっただけで…」
「―へえ?」
「で、でも…ファンの子達の中にはきっと本気でリドルのこと好きな子もいる、じゃない?だから…その子達からしてみればリドルと毎日一緒にいる私は…同じ気持ちを抱かれているわけで…だから別に…」

しどろもどろと説明するなまえがじれったくなり、リドルは気が付けば彼女の口を塞いでいた。暗い中でもわかるほど、なまえの顔は真っ赤になっていてリドルは喉を鳴らす。

「僕には昔からなまえしか居ないって、まだ伝わってないんだな。」
「リドル…」
「なまえと僕はずっと一緒だ、その約束を忘れたとは言わせないよ。」

そう言って紅い瞳を細め笑い、杖を振りかざす。すると手に抱えきれない程のコスモスの花束が現れ、同時に深夜の0時を告げる鐘が城内に鳴り響いた。

「嘘…」
「―HAPPYBIRTHDAY、なまえ。」

隣にリドルと手にはいっぱいの花束。これ以上ないくらいの幸せを感じ、なまえは感動して泣き出してしまった。また泣いた、と呟きながらもリドルはいつもよりも優しく笑い、なまえの頭を撫でてやる。

「リドル―ありがとう、私、最高に幸せ…」
「当たり前だ。なまえを幸せにできるのは世界中で僕だけだからな。」
「…ふふ、それ、自分で言う?」
「僕なら許される。」

くすくす笑うなまえににやりと笑うリドル。額を合わせると、どちらからともなく唇を重ねた二人は、なまえはもちろん、リドルもこの時いつも以上に心が満たされていた。


愛言葉を花束に
(言葉で伝えきれない分はすべてこの花束にのせていつまでも君に伝えよう)



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -