「ベラいい匂い。なんの香水??」

ヴォルデモート卿―トム・マールヴォロ・リドルが出掛けている昼下がり。くんくんと鼻を動かしベラトリックスにむぎゅりと抱き付く桜銀色の髪をもつ色白で小柄な少女はまるで本当の犬のように愛らしい。ベラトリックスにとってはこの少女は妹(実年齢はベラトリックスの方が下だが)のような存在であり、その溺愛ぶりは実の妹ナルシッサを上回っていた。

「これかい?どこだったか…ああ思い出した、シャイニークのだよ。」
「へえー!!あそこのって高いでしょ、いいなあ。」

ベラお金持ちだもんね、と身体を相変わらず黒い髪をくるくるに巻いている容姿端麗な彼女にくっつけたままの少女を、同じく黒い短髪で少しベラトリックスの面影があるような、同じ系統の顔をしたどちらかといえば背が高い方ではない少年が嫌そうな顔をしてソファーに腰掛けて眺めていた。

「で、さっきからなまえは何してるんですか。」
「え?ベラにすりすりしてたら自分にも匂いうつるかもって思って。」
「…きもい。」

変態ととられかねないなまえの発言に心底嫌そうな表情を浮かべると、彼の従姉妹は苦笑いを浮かべた。

「まあまあレギュラス。なまえ、そんなことしなくても香水かしたげるよ。」
「本当に?!」
「でもあんたのつけてる香水もいい匂いじゃないのさ。」

目を輝かせるなまえは、ベラトリックスにそう言われてまあそうなんだけどね、と懐かしそうな笑みを浮かべる。自分がつけている香りはホワイトムスクの香りが基調になっていて、可愛らしい、そう、なまえの代名詞になっていい程彼女にぴったりな香りだ。だがなまえとしてはもう少し大人の色香漂う香りを身に付けてリドルに喜んでもらいたいらしい。大人の色香という言葉が似付かわしくない恋する乙女の可愛らい理由ではあるが、ベラトリックスもレギュラスも、そんなことを言ってご機嫌を損ねては面倒なので黙っていた。

「これね、アビィが昔くれたものなの。でもほら、香水って次から次に欲しくなるじゃない?服や化粧品と一緒で。それに、アビィがくれた香水つけてたらリドル機嫌悪くて。」
「ああ―。」
「なるほど。」

可愛いじゃないかヴォルデモート卿、と二人は頷くが、目の前にいる少女はまだぶつぶつ文句を言っている。大体アビィの匂いが嫌なら自分が好きな匂い買ってくれればいいのにリドルは昔から本当に意地悪でね、などと闇の帝王の悪口、いや愚痴を言いだすなまえに、彼が帰ってきてやいないかひやひやしてしまう。彼のことを愚痴ったり、彼に意見したりできるのは世界中探してもなまえただ一人だろう。そんな二人の緊張感漂う心境など知らず、なまえはニコニコと笑いながら手を組んで話を続けている。

「それでね、今欲しいのが、ジルスチュアートの香水なの!」
「ジルスチュアート?」
「うん、マグル界のブランドなんだけど、とっても可愛いの!ほらこれ、カタログ。」

テーブルの上にばさりと広げて、可愛いでしょ可愛いでしょ!ときゃあきゃあ騒ぐなまえは、正真正銘女の子だ。確かに、なまえの童顔な可愛い雰囲気には似合っているデザインばかりだし、マグルの世界のブランドに嫌悪を抱いていたベラトリックスも、これは可愛いねと頷いた。レギュラスには何がいいのかよくわからず退屈な話だったので、女性は服だの化粧品だの好きですねとつまらなそうに呟いた。

「それでね、この香水が欲しいんだけど―リドルは外出許してくれないし。ほら、ましてやマグル界なんて、さ。」
「うーん…確かに難しいね。」
「卿はなまえのこと大事にしてますから。」
「う、うん、そお、そおなの、えへへ。リドルね、本当に二人でいたら意地悪だけど優しいんだあ。この間もケーキが食べたいって言ったらルシウスにいって買わせてきてくれたしね、猫が欲しいって言って駄々こねたときもルシウスにいって買わせてきてくれたし!」

えへへ、とにやけながら嬉しそうに話すなまえが可愛いのはおいといて、ルシウスが頭を抱えてたのはそうゆうことかと二人は彼に同情した。

「ねえベラ、レギュ。それでね、私いいこと思いついたんだけど。」
『断る。』
「え!ちょ、まだ何も言ってないよ?!」
「大体想像がつきます。」
「大人しく屋敷にいるのが賢明だね。」
「もおー!だってどうしても行ってみたいんだもの!ね、お願い。」
「卿に会わす顔がありません。」
「大丈夫、リドルなら夜中まで帰ってこないから!!」

そういう問題じゃないだろ、と心の中で突っ込みつつ、レギュラスはベラトリックスに後は頼みましたよと言うとそそくさその場を逃げ出そうとする。しかしがっしりと腕を掴まれにがさんとばかりにギロリと睨みつけられた。

「ねえベラお願い!」
「なまえ、じゃあまずは我が君に聞いてみてごらんよ。我が君が許してくれたらいくらでも付き合ってやるから。」
「本当に?」
「ああもちろん。あたしが嘘ついたことあった?」

優しく微笑みながらなまえの頭を撫でるベラトリックスに、ない、と首をふって否定すると、じゃあ今晩リドルに聞いてみるね、と嬉しそうに部屋へ戻っていく死喰い人の姫君。溜息をつきながらレギュラスを振り返ると彼は笑いを堪えたような表情をしていた。

「なにさレギュラス。」
「いえ…ベラトリックスもなまえには甘いなと思いまして。」
「………手がやけるよ全く。」

そう呟いたベラトリックスの顔は吐き出された言葉とは逆に穏やかだった。


姫様と死喰い人の日常


「なまえ、ソファーで寝るなって何回言えばわかるんだよ。」
「…ん…リドル…?」

甘く低い声に目をこすりながら暖色系の灯りが灯る部屋を見渡すと、すぐ真後ろに、顔を覗きこみながら呆れたようになまえの髪を撫でているリドルの姿があった。リドル、とへにょりと笑みを見せて彼の帰りを心待ちにしていたなまえはリドルの首に腕を絡めて抱き付く。

「ただいま。」
「リドル、いい匂い。」

まだ少し寝呆けているなまえはすぴすぴと犬のようにリドルの首筋に顔を埋めて匂いをかぐ。安心したのかくてりと、再びソファーに身体を投げ出す少女の頭にキスを落とすと、リドルは彼女を横抱きにしてベッドへと運び静かに寝かせると、ふっくらした唇に自分のそれを重ねて「おやすみ。」と微笑んだ。翌日になり、リドルが出掛けた後に起きたなまえが前日と同じように、ベラトリックスとレギュラスを困らせるのもこの屋敷では日常のことだった。


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