『なあ、名前はなんていうんだよ。』
『誰の名前ですか?』
『あ、の、なあ!お前しかいないだろ!!』
『何故隊長は私の名前を知りたいのですか、必要ですか。』
『おーい、自分のとこの部下なんだから名前を知るのは当たり前だろ!』
『そうですか。私は・・・・・****ですよ。』




最近入った新入りの****。紫色の髪にグリーンを基調とした服、オレンジの瞳。黙っていれば可愛い彼女に、エースは挨拶したときに名前を聞くのに実に1時間かかった。今まで、変わってる男は数多く見てきたが女でこんなに変わってるのは初めてで興味と面倒半々な心情だ。

「いや、今まで色んな奴を見てきたけど一番変わってる。」
「楽しそうじゃねーかエースんとこ。」
「楽しい…?ばかやろ、サッチてめえ!名前聞き出すのに一時間かかってみろ!先が思いやられるぜ…」
「まあまあエース…いいじゃねえかい、可愛いんだからよい。」

サッチに噛み付いたと思えばマルコに宥められ、エースはがっくり肩を落とした。確かに可愛い、可愛いが、あのレベルの彼女をどうやって扱えというのだ、誰か教えて欲しい。そもそも二番隊に入ってきたのになぜ隊長である自分のところに彼女が最初に来なかったのか、もっといえば一体誰が彼女をこの船に乗せたかも疑問なところだ。そんな話をしていると、嫌でも目につく紫色。船内から出てきたと思いきや、海に落ちるのではないかというくらいの際どい場所に座り本を開いていた。

「あいつ…危ないだろ!」

その姿をみつけるや早く、エースはサッチとマルコから離れて****の方へ走っていく。そんなエースを、二人はニヤニヤと「惚れたな。」などと言いながら見つめていた。

「おい。」

本を読む****にエースはふらふらと歩み寄る。何度呼んでも一向に振り向いてくれる気配はない。目の前に立っているのに自分を気にも止めない彼女に痺れを切らして、エースは屈んで本を無理矢理閉じようとした。そこに目に入ってきたのは。

「……………昆虫?」
「いたのですか、隊長。」

ようやく、顔を上げた****にエースは顔をひくつかせながら尋ねてみた。まず、こんなに呼んでいるのにいたのですか、隊長はないだろうと言いたい。次にお前が読んでいるものは年頃の女が読むような本ではない、と声を大にして言いたい。だが文句を言う元気もなくしてしまい控え目に声をかけた。

「………何でそんな本読んでるんだよ。」
「研究のためです。」
「研究?」
「ええ。海を航海していれば様々な現象、様々な生物に出逢います。その時に備えて困らないように、です。例えば隊長がなんの気なしに蜘蛛を捕まえたとします。けれどその蜘蛛が毒蜘蛛だとしたらあなたは死に至るかもしれません。そういったことがないように、です。」

****の言っている意味がまったくわからない。そもそも、何だって蜘蛛を捕まえるっていうのだろうか。内心、ため息をつきながらではあるが一応仲間のことを気遣ってくれてのことなのか?と思いエースは頑張って会話を繋げてみることにした。

「……つまり、俺を守ってくれるってことか?」
「そうとも言いますね。あなたは隊長ですから。死なれては困ります。」

真顔でさらりとそう言う****に、エースはなんだそうゆうことかと、くしゃっと笑って見せた。

「俺はそれくらいで死んだりしねえよ。」
「もちろんそれは当然のことです。隊長であるあなたがそんなに簡単に死んでしまってはこの船の先行きが不安ですから。あくまでたとえの話です。あなたが何で本を読んでいるのかと聞いてきたので答えました。」

視線を本に戻しながらすぱっと言い放つ、紫色の髪の彼女を見つめて苦笑いを浮かべるエース。今彼女にとっては、自分とのやり取りなどどうでもいいことなのだろう。でもそれは少々面白くない。

「なあ****。」

ぱたんと、無理矢理本を閉じさせるエースになんでしょうとでも言いたげな****を見てにやりと笑う。

「“隊長”じゃなくて、名前で呼んでくれねーか?」

エースの一言に、****は表情を変える。その大きく見開かれた瞳を見つめて、にやにやと満足気に笑う彼。なんだ、そうゆう顔できるんじゃないかと、エースは少しホッとした。しかし、その表情はすぐに戻り「考えておきます。」とだけ返された。その後すぐに視線は本に戻され、エースは肩を落とす。コミュニケーションをとっていくのに苦労しそうだと思いながら、よっと立ち上がりテンガロンハットを深くかぶりなおした。

「隊長。」
「………なんだ。」
「蜘蛛に触る時は注意してください。」
「…………へーへー。」

呆れたように返事をするエースだったが、その表情は何故か嬉しそうだった。よくよく考えると、先程の話のくだりからして、今の彼女の一言はもしかするとじゃれあいというかジョークというか、絡みの一つであるのかもしれない。(非常にわかりにくいが。)そう考えると、****をもっと知り、もっと近付きたいと感じてしまう自分がいることに疑問を抱くエースだった。



02.名前



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