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朝からエースは、姿が見えない彼女を探していた。先日いつの間に二番隊に新入りが入ったのかと白髭―通称親父に尋ねたところ、「隊長のお前が面倒見てやれ。」と質問の返事になっていない応えが返ってきた。もちろん、面倒を見る気では居たのだが色々と教えてやりたくても本人が居ない。ざっと、デッキを探しても見当たらないので、エースは船内の共同スペースをあたることにした。
「なあ、****知らねーか?」
エースがキョロキョロとしながら医務室にやってくると、ナース達が頬を赤らめながらきゃあきゃあと騒ぐ。この船での女選びはエースからしないとはいえ、憧れや恋愛感情を抱かれないというわけではない。現にナース達のほとんどは皆、エースに恋をしている、又はしていた。
「だ、誰ですか…その人?」
「あー…あいつ挨拶してないのか?スパイに間違われたらどーすんだ…。」
―挨拶しとけよっつったのに。
エースは溜息をついてめんどくせえと呟きながら頭をかく。だが、考えてみれば自分から挨拶をして歩くようなキャラではないな、と、二度話してみての結論に至りなんとなく納得してしまう。ここにいないのなら別の場所を探すしかない。船に居るのは間違いないのだからこうなれば片っ端から見ていこうと、医務室を出ようとした時だった。
「この薬、効きそうですね。借りていきます。」
後ろから聞こえてきた声に振り向くとそこには探していた少女の姿。エースは薬棚を物色している****に近寄り、わっと声を掛けた。特に驚きもせず、当たり前だが表情を変えずに****はエースを見つめていた。
「何してんだ?」
「あ。……………。」
「…。」
「…………。」
「エースだ!隊長の名前忘れんな!!」
自分の顔を見たまましばし黙った彼女の心が何故か手に取るようにわかり、ついつい叫んでしまう。しかし、悪びれた様子も無くケロリとしている****は抑揚のない声でつらりと返す。
「失礼。興味の無いものは忘れていく脳になっていますので。」
「…お前、すげー失礼な奴だな。」
俺は興味の無い対象ってか?
納得いかねー。
「エースさんが探してた人って…」
「あ?ああ、こいつ。二番隊に入った新入りなんだ。ほら、****!いい機会だから皆に挨拶しろ!」
「挨拶?なぜですか?」
「何でって…新入りはまずは顔を覚えてもらわねーと。」
「挨拶をしても私は興味の無いものは覚えません。例えるならば年頃の娘が料理をした際に味付けに塩を使うのと同じくらい簡単に忘れていきます。」
「こらこら!つーか意味わかんねえし!はー…わりぃな、変なヤツで。」
『い、いえ…』
あまりの****の変わった態度にぽかんと口を開けるナース達。エースは苦笑いを浮かべて、再び薬棚を眺めている****の腕を引っ張った。
「よろしく、ぐらい言っとけ…って、は?!」
「痛いです隊長。」
白い腕からぽたぽたと垂れ落ちる赤い液体が目に入り、エースはギョッとする。並みの量ではない。綺麗にぱっくりと割れた傷はそこらへんの刃物でつくられたものではなさそうだ。ナース達も慌てたり唖然としていたが、当の本人は落ち着いていた。
「おま…!!なんだよこの腕!!何したんだ!!」
「たまにあることです。かまいたちにやられました。私くらい優秀ならば仕方ありません。」
「はぁ?!つーか!!んなもん選んでる場合じゃないだろーが!!こっち来いよ!!」
エースはよくわけのわからないことを言っている****をベッドに無理矢理座らせ、傍にあった消毒液で傷口を押さえた。ナース達も包帯を持ってきて****を取り囲んで待機していたのだが、その様子にすら眉ひとつ動かさない彼女を見つめながらエースは再び溜息をつく。****と会ってからもう何度溜息をついたか。
「ばかやろー…。」
「私は馬鹿ではありません。なぜなら私は「…もういいから、少し黙っとけ。」
ナースから包帯を受け取り、傷口にぐるぐると、綺麗に包帯を巻きつけていく。どうやったらこんな傷ができるんだ、戦闘があったわけでもあるまいし…そんなことを考えていると、エースの手をじっと見ていた****が、突然エースの手を掴んだ。
「うわ!なんだよ!」
「大きな手ですね。」
「は?!」
「それに長くて綺麗な指です。」
「ば…か!何言ってんだ!!////」
そんな類のことは言われ慣れているはずなのに、エースは顔を真っ赤にし動揺する。なんでこんなに****の言葉にいちいち反応してしまうのだろうか。包帯を巻く手を止めて固まった、テンガロンハットをかぶる青年はにぺこりと頭を下げ、****は包帯を彼の手から奪う。
「ありがとうございます。もう自分で巻けます。」
ひょいっとベッドから降りてすたすた歩いて行ってしまった****を、暫くボーッと見つめていたエースだったが我に帰り急いで彼女を追いかけた。待てよと声を掛けると、首をかしげる****の姿。じいっと見つめられれば確実に先程よりも顔が熱くなる。
「エース、顔が赤いですよ。熱ですか。」
「…///そーゆーことにしといてくれ。」
ありえない、ありえないと心の中で言い聞かせながら放っておくことのできない****の後ろに続くエースだった。
03.芽生えた何か
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