舞台は白髭海賊団。毎日毎日海の上の生活が続く。敵が居れば勢いよく水を得た魚のように応戦するも、今日で海上生活は三週間になりクルーのほとんどはそろそろ陸の上にあがりたくなる頃だった。そんな昼下がり、一番隊の隊長である不死鳥のマルコと二番隊の隊長火拳のエースがデッキで暇を持て余して他愛ない話をしていた。

「最近、新入りが入ったって話だけどよい、お前逢ったかい?」
「いんや。」
「どこの隊に入ったかはきーてねんだけどよい、女らしいぜい。」

うきうきしながら話をするマルコに、へえ〜と興味なさげに相槌をして、テンガロンハットを顔にかぶせ昼寝をしようとするエースの額がびしっと叩かれた。痛ーよマルコ!と体を起こすと彼はケラケラ笑っている。

「もっと喜べよい!!女だぞい!!可愛いって噂だしない!!」
「いや、別に…確かにイイ女にこしたこたーねーがな…」

モテないはずの無いエースだが、恋愛に関しては割りと淡白。船内で手をつけるのは面倒だし何より自分は海賊だ。恋だの愛だのにうつつを抜かす気はない。停泊した島で遊びで一夜過ごす女性は今まで何人も居たが本気で恋愛をしたことは一度も無い。女好きなわけでもなく、ただただ浅く軽く付き合うのが彼のスタイルだった。それ故に新入りの女に興味をもつなどということを思うはずがないのだ。そんなエースとは対照に熱弁するマルコの背後―ふと視界に紫色が飛び込んできた気がし、エースは目を見開く。視線の先には、紫色の髪にグリーンを基調とした服を着た色白の少女が海を見つめて立っていた。見たことのない女だ。船員の多い白髭海賊団だが、一応隊長のエースはすべての船員と一度は面識がある。だがあんな少女と面識があっただろうか。印象的な髪の色に服装は一度会えば忘れるわけがない。

「おい、マルコ。ありゃ誰だ?」

とんっと、一番隊隊長の肩をたたいて、指を差す。マルコも首を傾げてあんな少女がこの船に居たかを思い出していた。一番隊にはまず居ない。不思議そうな表情で腕を組み、うーんと唸る。

「見慣れねーない。もしかするとあれが新入りじゃないかい?可愛いない。」
「おい、お前。」
「はやっ!」

既にその場から姿を消して、少女に近づいているエースにマルコは苦笑いを浮かべる。礼儀正しい性格ゆえに挨拶をしに行ったのか、それとも何かが芽生えたか。あの感じだとおそらく後者だろう。

「……惚れたかねい。」

恋愛など興味のない、ましてや一目惚れから最も遠かった親友の行動に面白みを感じ、遠くからその様子を見守ることにしたマルコだった。エースはといえば、何故こんなに目の前の少女に興味を持っているのかわからないまま、海を見つめている彼女に声をかけている。

「おい!」
「……」
「おーい!」
「……」
「おーい!聞いてっか!」

痺れを切らして、目の前の少女の顔を覗きこむエースに、オレンジ色の大きな瞳がじいっと向けられた。近場で目があい、体が熱くなる。暫くお互い見つめあった後、ようやく少女か口を開いた。

「私のことを呼んでいたんですか。」
「こんな至近距離でお前以外に誰呼ぶんだよ!」
「そうですか。あまりにもおーい、と聞こえたので、てっきり、おーいさんを呼んでいたかと思いました。」
「…………。」

なんだこいつ―エースが眉間に皺を寄せてぼーっとしていると、少女は突然、エースにぺこりと頭を下げた。

「では、失礼します。」
「って、ちょっと待て!まだ話は終わってねえ!」

いきなり居なくなろうとする少女の腕を掴み、エースは慌てて引き止める。細い手首を捕まえれば、なんだか体だけではなく胸の奥まで熱くなった気がした。無意識に能力を発したんだろうかどうしたんだろうかと内心で焦るも、表情一つ変えずに居る目の前の少女に何だか心が見透かされていそうに感じ、急に恥ずかしくなる。だが少女はエースのそんな心情などどうでもいいようで、というより気付いているわけもなく首をかしげていた。

「何か用事でもありましたか?」
「いや、用事ってゆーか…お前新入りだろ?挨拶でもしようと思ってさ。」
「そうですか。」
「俺はエース。二番隊隊長だ。」
「…あなたは隊長でしたか。ではあなたは私の上司になるわけですね。」

少女の言葉にエースは目を丸くする。上司―ということは二番隊に属している船員だ。

「お前、二番隊なのか?」
「はい。丁度一人かけたようなのでその穴埋めにと、スカウトされました。」
「…へ、へえ。」
「ではもう用事は済んだようですので、失礼します。」
「!おい!だから!!!お前の名前きーてねーぞ!!!」

全く噛み合わない二人の会話。様子を見ていたマルコは笑いをこらえきれず、ゲラゲラと大笑いし、すっかり二人に釘付けになっていた。

「変わってる新入りだねい!」

天下の火拳のエースが振り回される相手、登場か?などと、早速サッチとジョズに報告せねばと、船内に消えて行った。



01.一方通行な挨拶


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