****はナミのみかん畑へ行き、手すりに寄りかかり海をぼーっと見つめる。

やっぱりサンジに好く思われていなかった

そう誤解した****は激しく動揺していた。

「…ぐす…っうぇ…」

サンジのことを好きで好きで仕方ない気持ちとサンジの****への態度。現実と向き合うことが怖くなり、ついに****の目からは涙がこぼれ落ちた。

「****。何泣いてんだお前。」
「…ゾロ。」

昼食後はどうやらみかん畑の近くで寝ていたらしいゾロが、立ち上がり****の隣に並んだ。

「さっきも泣きそうだっただろ、あー、昼飯の前だ。なんか最近元気ないしな。クソコックに何かされたのか?」
「…サンジ君、やっぱり私のこと好く思ってないみたいで。」
「なんだそりゃ。」
「…最近、サンジ君に避けられてる…っていうか、素っ気ないなって思ってたの。話しかけても全然…だから私、サンジ君に聞いてみた。」
「…あいつは何て言ったんだ?」

ゾロは絞り出すように静かにぽつりぽつりと話す****の言葉の先を促した。

「…何も言ってもらえなかった…」


(そりゃそうだろーな。答えようねーぞ。)


うつ向く****に溜め息をつきながらゾロが彼女の頭をぽんぽんと撫でてやると顔が上げられ、大きな赤い目が瞬いた。

「クソコックのことはあんまし気にすんな。あいつがどー思ってようがお前はあいつのこと好きなんだろ?だったらここで泣くより、頑張ってみろ。お前には“歌”があんだろ。」

―歌がある―

「…そっか…そうだよね。…ありがとうゾロ。私、私には歌があるもんね!」

ゾロの手をぎゅっと握り****は笑顔を取り戻して船内へ走っていく。残されたゾロは、単純なヤツ…と呟き、みかん畑に囲まれて再び昼寝を再開した。

しばらくこもるから!!

唐突にそう宣言されたナミとロビンは顔を見合わせて、なんだか生き生きしている****の後ろ姿を部屋のドアの隙間から覗き込んでいた。

「ギターとノートとペン。あれは本当にしばらくの間何を話しかけても無駄ね。」
「そうね。一番楽しい時間だものね。」

****は作詞作曲をするとき―要するに新しく歌をつくるときは、部屋にこもり誰の話も受け付けないし飲まず食わずで没頭する癖があった。彼女はそれが一番楽しい時間だと以前嬉しそうに話していたのだ。

「歌しかないって、言ってたわよね****。」

ラウンジの椅子に腰掛けたナミは、向かいに座っているロビンに呟く。

「自分は戦いが得意じゃないからあたしたちにできることが歌を歌うことしかない。だから歌を歌い続けるんだって。あたしたちと出会う前もずっとそうだって。そう言ってたわ。…それってなんか違う気もしたけど、あの子がそう思ってるなら仕方ないわよね。」

ナミは****寂し気にどこか遠くを見ているような目をしてそんなことを言っていたのを思い出した。

「そうね、少し違和感はあるけれど…でもそれでもいいんじゃないかしら。歌うことで何かを見出せるなら、何もないよりよっぽど。」

くすくす笑いながらロビンは冷静に言う。ナミが苦笑いして、そうねと答えたとき、船内からサンジのいつもの甘ったるい声がうんざりするほど聞こえてきた。

「んナミすわぁぁぁん!ロビンちゅわぁぁん!本日の三時には何をお望みで!」

しゅたっとナミとロビンの前に膝まずき決め顔で二人を見つめているサンジに、ナミはフルーツサワー、ロビンはコーヒーをお願いする。

「了解しましたっと、あれ?****ちゃんは…」

キョロキョロと辺りを見回すサンジだが、****の姿は近くにはない。

「****なら部屋にこもるって言ってたわよ。お菓子も夕飯も要らないんじゃないかしら。要らないっていうか、何言っても多分耳に入んないと思うからほっといていいわよ?」
「そうですか…」

彼女がそうして曲づくりに没頭するのは別に珍しいことではないので驚きはしないが、先程あんなことがあった為にサンジは****の様子が気になって仕方なかった。

(****ちゃん、二日は出てこねーよなきっと。…誤解を解くのは二日後か…いや、でもどうやって…)

誤解されたままは嫌だから解きたいが、そうなれば自然と、気持ちを告げることになる。もし自分が****のことを好きだと言ったらどんな顔をするだろうか?ずっと好きだったってことを知ったらどんな風に思うんだろう?

サンジの心は落ち着き無く、暫くはスイーツも食事も、イマイチ身が入らない予感がした。





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