夕方になりサンジが夕食の支度を始めた頃、キッチンにひょこっと****がやって来た。サンジはまだ気付いてないらしく、****の方を振り返る気配はない。

「サンジくん。」
「!****ちゃん!どうしたんだい?ナミさんとロビンちゃんから、部屋にこもってるって聞いてたから二日は出てこないかと思ってたぜ。お腹空いた?」
「あ、うん。でも、前から考えてた曲だったからもう完成しちゃって。」

控えめに自分を呼ぶ声に振り向けばキッチンには****が立っていて、昼間の不安気な彼女は今、いつもと変わらないためサンジはほっと胸をなでおろした。

「サンジくん。私の歌、聞いてくれる?一番に、サンジくんに聞いてもらいたい。」
「俺に?****ちゃんにそう言ってもらえるのは嬉しいが…本当に俺が一番でいいのかい?」
「うん。サンジ君に聞いてほしいの。」
「…わかった、じゃあ、夜洗い物の後でいいかい?」
「ありがとう。じゃあ後でね。」

****がそそくさキッチンを出て行くと、サンジは一番に自分に歌を聞かせたいと言ってもらえたことが嬉しくて、抑えていた顔のにやつきをでれんと押し出す。
するとちょうど、昼寝と鍛練を終えたゾロがキッチンへのそのそと入って来てどかっと椅子に腰掛けた。

「おい、飯はまだか。」
「ったく。てめぇの中には寝るか鍛練か飯しかねえのなマリモ。」
「あぁ?健康的でいいだろーが。」

相変わらず偉そうなゾロにサンジはイヤミの一つでも言ってやりたくなり、振り返りもせずに皮肉る。

「ったく、これだから筋肉馬鹿は…」
「筋肉馬鹿で結構だ、情けないエロコックより100倍マシだね。」

サンジはさすがにピキッと来て手を止めてゾロを睨む。

「俺のどこが情けないだと?」
「てめえが一番よくわかってんだろ?****のことだ。いつまでうじうじしてやがる、見ててじれってえ。好きなら好きってハッキリ言っちまえっつってんだよクソコック。」

ゾロの言ってることはもっともな為、サンジは返す言葉が見付からずに煙草に火をつける。そう、自分が一番よくわかってるのだ。だからこそゾロの言葉に何も言えなかった。

「あいつ、お前に嫌われてるんじゃないかって悩んでたぞ。知ってんだろ。さっさと決着つけろよ。」

それだけ言うとゾロはキッチンを出て行った。

(なんだ、マリモのヤツ…わざわざそれだけ言いに来たのか…)

煙草を吸いながら、****を思い浮かべる。最近ずっと、自分から二人にならないようにしていた。二人になったら何を話していいかわからなくなるからだ。だから今日、****と二人きりになれることが嬉しい反面緊張もする。だがナミやゾロの言う通り、そろそろ自分の気持ちを打ち明けなければ前に進めない。

「…よし。」

その夜の食事には****は姿を見せなかった。ナミに聞いたところ、後で食べると言ってどこかへ行ってしまったらしい。みんなの食事が終わり、残っている****の分の夕食を冷蔵庫にしまい、後片付けをしていると聞き慣れた可愛らしい声がかかった。

「サンジ君、手伝おうか?」
「****ちゃん。いいよ、座ってて。今終わるからさ。」
「…うん、あ、じゃあ、終わったらみかん畑に来てくれる?」

****の言葉にサンジは頷き、急いで残りの洗い物を片付けていく。夕食のことを聞き忘れたが、きっと食べるだろうし歌を聞いてからでもいい。

(にしても、****ちゃんっていつも音もなく現れるからちょっとびびるな)

なんとなく気配はあるものの、いつも気が付いたらそばに居る****が少しおかしくて自然と顔が緩むのを感じた。

「さて…みかん畑っつってたよな。」

後片付けが終わったのでエプロンをはずし、サンジはキッチンを出る。****に一番に選ばれたことと、久しぶりの二人きりになるチャンスにドキドキしながら外へでると、すぐに美しい旋律が聞こえてきた。






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