数ヶ月前に、麦わら海賊団に新たな仲間が加わった。彼女はピンク色の髪をふわふわとなびかせ、大きな赤い瞳は、見つめられると吸い込まれそうになるほど純粋だった。




〜♪

船には****の綺麗な歌声が響いている。****は歌姫。ルフィが突然連れてきた時はクルー全員が驚いたが、今ではすっかり船に馴染み、毎日歌を歌っていた。

サンジは****の歌を聞きながら昼食の支度をするのがいつしか日課になっていて、今日もご機嫌に一緒に口ずさむ。

(****ちゃんの声、綺麗だなあ…)

初めて****に出会った日から、サンジの中で何かが変わった。****が自分と一緒にいてくれると嬉しい。自分に笑いかけてくれると幸せな気持ちになる。サンジが、これが恋なんだと自覚したのは遅くなかった。今まで女の子にはみんな同じ態度で接してきたが、****にだけは違う。他の子にするように軽々しく近寄れないし口説けもしない。柄にもなく体が熱くなり、うまく話せなかったりする。サンジの態度は当の本人である****以外全員が、****への本気さがわかるほど、明らかに違っていた。

「あら、いい匂いね。」

そう言って、暑そうにパタパタと手であおぎながらキッチンへ入ってきたのは航海士のナミで、いつにも増して解放的な格好の彼女に、サンジは目をハートにする。

「んナミすわぁぁぁん!!なんていう素敵な!いつもの格好も好きですけど今日の格好はもっと好きです!!」

鼻の穴を膨らませ近寄るサンジを、ナミははいはいと受け流す。するとそこへ丁度****がやって来た。

「サンジ君、麦茶もらってもいいかな?みんな暑いってばてちゃってるんだぁ。」

****もナミと同様暑そうで、普段よりも薄着だった。見ると胸が大きくあいたワンピースを着ていて、白く細い肌が暑さのため少し汗ばみ赤みを帯びている。くっきりと浮き出た鎖骨があまりにも無防備でサンジの理性をくらくらさせる。

「今用意するよ、座ってて。」

ドキドキしながら眉ひとつ動かさずにぶっきらぼうにそう言い、サンジが冷蔵庫に手をかけたとき、****が少し慌ててサンジの手に触れた。

「いいよ、サンジ君!私がやるから。お昼ご飯作ってるんだよね?ルフィがさっきから、昼はまだかって言ってるから、料理続けてて?」

****はそう言って冷蔵庫から麦茶と食器棚からコップを4つだしてお盆の上にのせた。そして冷凍庫を開けて、アイスボックスから氷を取り出しコップに入れ、麦茶を注いでいく。

「ふぅ、今日はいつにも増して暑いね、ナミは涼しそうな格好だけど…サンジ君は暑くないの?」

****はナミを見てからサンジを見つめた。サンジの格好は普段と変わらないスーツだ。さすがにジャケットは脱いでいるが、あまり暑そうな素振りを見せていないのが不思議なようだ。

「俺は平気だよ。****ちゃん、麦茶、ぬるくなっちまうぜ?もーすぐメシできっから、そしたら呼びに行くよ。」
「あ。うん、じゃあ…お願い…」

もう少し話していたかった****は少し寂しそうな顔をして、促されたままにキッチンを出て行った。

サンジがドキドキするのを抑えながら料理を再開すると後ろでナミがくすくすと笑っていた。

「…なんすか、ナミさん…」
「あははは…ごめんごめん!だってサンジ君、あんまりにも可愛いからおかしくて…」

少しむくれた顔をして振り返ったサンジがますますおかしくて、ナミはついに声を上げて笑い出す。

「はー、お腹いた…サンジ君って****には自慢のフェミニスト使えないのね、相変わらず。露骨過ぎてバレバレだわ。」
テーブルに肘をついてサンジの背中を見ながらナミは言う。女性には見境なくハートを飛ばすサンジが****だけにはそれができないことを、ルフィを除いてクルー全員がわかっていた。もちろん、サンジの気持ちも。

「…しょーがないんですよ、こればっかりは。意識してあんな態度とってる訳じゃないですし…****ちゃんがそばにいると、ドキドキしちまって、うまく話せねぇ。マジ情けねえな俺。」

背中を向けているサンジの表情は読み取れないが、耳が赤く染まっているのにナミは気付いていた。

「情けないとは思わないけど、サンジ君らしくないなとは思うわよ。****には、もしかしたらサンジ君は自分のこと嫌いなのかも、って思われるかもしれないわね。あたし達は長い間サンジ君のこと見てきてるから、****へのサンジ君の態度は好きな気持ちが本気だからだってわかるけど。あの子はサンジ君のこともあたしたちのこともきっとまだ知らないから。」

サンジはナミの話を黙って聞いていた。確かに、自分の****への態度は****のことを嫌っていると取られてしまう態度かもしれない。だけどサンジはどう頑張っても、****にナミやロビンと同じような態度を取ることが出来なかった。

「…今日は…****ちゃんがあんな格好してるから悪いんですよ。」
「あんな格好?」
「あんな、いくら暑いからってあんな大胆な格好して…俺、あんな格好してる****ちゃんと二人っきりになったら何するかマジでわかんねぇ…やべーだろあれは…」

片手を口元にあてながらサンジは顔を真っ赤にした。ナミは先程の****を思い浮かべ、あれぐらいで照れているようじゃこの先が思いやられると溜め息をつく。

「はいはい。サンジ君の気持ちはわかったから…とりあえずご飯お願いね?そろそろルフィがお腹空かせて騒ぎ出す頃よ。」

ナミは席を立ちながらそう言うと、自室へ戻って行った。

キッチンに自分以外誰もいなくなったことにふと我に返れば、ちっとも進んでない昼食作り。

「我ながら重症だな。」

苦笑いを浮かべ、サンジは煙草に火をつけた。






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