「何してんだてめぇ。」
「あ、キッド。」
船長室でくつろぐ、一人の少女―****は少し間をおいてから声の主に応えた。キッドはずかずかと部屋に入っていき、椅子に腰掛ける少女を睨み付ける。
「あ、キッド。じゃねぇ。ここは俺の部屋だぞ。」
「あんたの部屋、鍵開いてたんだよ。だから代わりに留守番しといたんだ。」
見向きもせずに本を読んでいる****に、なんだかイライラしてしまう。キッドは本を取り上げ****の白い額をぴんと指ではじいた。
「なーにが留守番だ!こういうのは不法侵入っつーんだよ!!ばーか!!」
「痛いなぁ、そんなにイライラしてると体に良くないよ。」
「だ、誰のせいだと…」
怒ることも反論することも無くただ自分を受け入れるだけの****に、キッドは苛立ちを隠せずにいた。そんな彼をまったく気にもせずにキッドから本を取り返し鼻歌を歌いながらまた手元の本に目を向ける。
「ちっ…」
―こいつだけは苦手だぜ。
自分で連れてきた癖に、キッドは今まで生きてきて女性をこんなに苦手だと想ったことは無かった。よく言えば直球、悪く言えば単純な彼の性格上****のようなおおらかでつかみ所のない、彼から見て言ってしまえば変人の彼女はもっとも苦手だとするタイプの女性―本当はもっと別の理由があることに、ただ気付いていないだけなのだが。溜息をつき、部屋から出ていこうとすると後ろから「あっそうだ。」とかわいらしい声が聞こえた。その声に思わず振り向くと今日初めて****と目が合う。大きな青色の瞳がキッドをじっと見つめていた。
「腕はもう大丈夫?」
「…!」
先日の海軍との戦いで、キッドは不覚にも腕に怪我を負っていた。誰にも悟られないようにしていたし現に自分が怪我を負ったことはキラーでさえ気付いていない。
「てめぇ…なんで知ってやがる。」
「だってキッドはわかりやすいもん。でも、その反応なら大丈夫そうだね。」
「……。」
「大丈夫ならいいんだ。」
そう言って椅子から降り、すたすたと横を通り過ぎていく****の腕を掴み足を止めさせれば銀色がかった金色の髪が揺れる。
「どうしたの、キッド?」
「え…」
無意識のうちに引き止めてしまっていた自分の手を見て、キッドは顔を赤くする。そんなキッドを見ていつもと変わらない笑みを浮かべ****はやんわりと彼の腕を解いた。
「この本、借りていくね。」
「お、おお。」
****の出て行った部屋はいつもと違い余計に静かに感じられた。キッドは先程まで彼女が座っていた椅子に手を置くとそのまま床に座り込む。
―まさか、あいつ腕のことだけで?
「…だから苦手なんだよ。」
好きだって、気付かされちまったじゃねーか。
(きっと出逢った日から僕は君に恋をしていた。)
君に恋するつもりじゃなかったのに
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