「ルーシィ…」
「ロキ……」

妖精の尻尾のトイレに閉じ込められ、蓋が閉められた便座の上に座りロープでぐるぐると巻かれている僕は自分を熱を含む視線で見つめている少女を見上げた。解せないのは、ここは妖精の尻尾でありトイレであり……可愛い恋人が目の前にあるということ。珍しく彼女の方から呼びだしがかかり、それはもうウキウキな気分で現れてみれば、トイレだった。あ、そっか、初めてのアレはトイレがご所望なんだね、と口にすればお座り、待て、と凄みがきいた声色で命令された結果がこれだ。(それにしても犬じゃないんですけど…と言いつつしっかりルーシィにしつけされている。)

「あのー、なんで僕は縛られているのでしょうか…」
「それは、自分の胸に聞いてみたら?」

なんとなく敬語を使って訪ねてみれば、にこり、と今まで見たことがない極上の笑みで綺麗に笑ったルーシィに僕はだくだくと汗が体中から湧き出た。

こわい。こわいよルーシィ。
そんなに綺麗に微笑まれたら、その笑顔の裏にある黒いオーラがだだ漏れだよ!

どうしよう、これは初めてのアレはトイレがいいの、なんて雰囲気じゃない。

一体何事かと考えていると、ルーシィが口を開いた。

「昨日のことです。」
「…へ?」
「昨日の夕方、あなたはなにをしていたかしら?」
「……昨日?」

なに、なにかしたっけ?昨日はもうすぐルーシィと付き合って3ヶ月だから、その記念日に渡そうと思ってたプレゼントを探しにこっそり街に行ってたんだけど…………まさかばれ、

「偶然、あたしはあなたを見かけました。」
「………。」

や、やっぱり…!!!

終わった………終わったよ、僕…………!

サプライズしようと1ヶ月前から計画を練ってたのに……お店だって予約して、そこでデザートの中から指輪が…みたいなプロポーズ張りの演出にする予定だったのに…

「…ルーシィ、まさか君にばれてたなんて…」
「え……」
「言い訳のしようもないよ…実は…」
「…き、聞きたくない!」

突然声を張り上げて耳を塞ぐルーシィに僕は戸惑った。え、なに、やっぱり最後までサプライズを貫けと?もうばれてるのに?

スーツのポケットに入った小さな箱を思い浮かべる。こんな恐ろしい思いするくらいならもういっそのこと全部話してしまいたい。

「…だって見たんだよね?」
「…見たわよ。」
「だったらさ…実は昨日は…」
「っ…言い訳なんか聞かないわよ。好きな人はルーシィだけだよ、あれは好きな人じゃなくてね、とかそんなのうんざりよ。」

ルーシィの口から発せられた言葉に僕は目を見開いた。鳩が豆鉄砲をくらうとはこのことか。なんのこと?さっきから僕の可愛い可愛い彼女はなにを、

「えーと、ルーシィ、なんのこと?」
「しらばっくれてもだめよ、あたしみたんだから。あんたが綺麗な女の人と楽しそうに話しながら歩いてるとこ。」
「………女?」

ようやく彼女の言っていることがわかった。だけどあの人は好きな人とか浮気だとかそんなんじゃなくて、って、………ルーシィ、なに持ってるの?なにその茶色い生き物は。あれ、死んでる?死んでるよね!い、生きてても困るけど、いやいやいや。待って、待って待って待って、待ってください!

「浮気した罪は…大きいのよ、レオ。」

こんなときにレオなんて呼ばないでよずるいよルーシィ、思わずきゅんとしたが一瞬で呼吸が止まった。ルーシィがじわじわと僕の顔に近づけてくる物体には見覚えがある。ぴよんと細く微妙に外側に向いてる触角と茶色く光る胴体。ちょっと乾燥気味。

「うそうそうそやめてくださいルーシィ様。はははは、、わ、わ、悪い冗談はよして、」
「冗談じゃないわよ。ミラさんがキッチンに仕掛けてたやつにひっついてたの。あら、大丈夫よもう死んでるし。」
「は、はは、死んでるとかそういう問題じゃなくて。」
「ほら、あんたライオンじゃない?サバンナではよく食べてたでしょ?」

いやいやいや。食べてないし、いや、食べてたとしても僕ライオンじゃないし、獅子宮だし、星座だし、むしろこの世で一番嫌いな生き物です。ルーシィの綺麗過ぎる笑顔に勝るとも劣らないほどに大嫌いです。

ずいずいと僕の顔とそいつの距離を詰めてくるルーシィの笑顔は相変わらず綺麗だけれど、、

「良かったわねえ、サバンナで餓死せずすんで。」
「ルルルルルーシィ!あたってる!ヤツのアレがあたってるから!!!助けて!!やめて!!!」

次第に綺麗な満面の笑みがうっすらした笑みに変わっていく可愛い恋人。口元に笑みを浮かべる彼女だが、目は笑っていない。
ヤツとの距離はあと僅か1センチとみた。

神様仏様星霊王様。
僕の人生、なかなか楽しく創り上げてくださってありがとうございます。

ああ、ルーシィ、君の笑顔は満天に輝く星より美しいよ。

上からも下からもいろんなものが出てきそうになったとき、ヤツの胴体が僕の頬にぴったりとくっついた。










「…ミラ姉。なんか今、…絹を割くような悲鳴が…」
「ふふふ、ハマった方が壊れてくって本当ね。」
「?どういうこと?」

きょとんとしているショートカットの可愛らしい少女と我関せず楽しませてもらっていますといった様子の女性の横で、たった今その絹を割くような悲鳴をあげた彼の主人が朝から誰もが嫌う茶色いアレの死骸を片手に、天罰を、などとぶつぶつ呟く不気味な姿を見ていた上半身裸の黒髪の青年が青い顔で震え上がっていた。



(女の人と歩いていたのは道案内の為でなにもないと誤解が解けたのはその日の夜であり、サプライズのために買っていた指輪を渡す羽目になってしまった不運な青年は大泣きしながら彼の世界へ帰っていき、それから主人の世界で言えば二週間は喚んでも喚ばなくても姿を現すことはなかったとか。)


恋に溺れた少女A


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