ルーシィが仕事から疲れて帰ってきたのは午後九時を回った頃だった。

今日の仕事は思っていたより大きなもので、終始星霊を喚んでいた為魔力の消費が多くなりそれは如実に疲労に繋がっている。
いつもならシャワーに入ってからベッドに身を沈める彼女が真っ先にそこへ向かったのは少しだけ眠りたいとらしからぬことを考えたからだった。

「つかれたー…」

枕に顔を埋め仕事のことを思い返す。頭に浮かぶのはへにょりんとした笑みを浮かべるあの星霊。現れた時は、ああルーシィ今日も太陽より眩しいよだけど君なら目にいれても痛くないかな、なんていつものように口説き始めたのをはいはい、と言って適当にあしらっていたのだが、戦うとなったときの鋭い眼孔が今日は嫌に頭から離れなかった。

「…詐欺よね。」

いつもは穏やかに凛としている切れ長な瞳が、獲物を見つけた猛獣のように光る、あの瞬間。体中なにか熱いものが走ったような気がしてならない。戦うときの彼も見慣れていたはずだったが、あの、まさに"瞬間"に切り替わった顔をまじまじ見つめたのは今日が初めてだ。あの彼を、彼の心が自分ただひとりに向けられているのかと想うとぞくぞくする。

「…獅子宮…レオ……」

名前を口にすればじんわりと熱くなる体に、ルーシィは不思議な位に自分は心のどこかでとうに彼を受け入れているのでは、と苦しくなる。素直に感情や想いを伝えてくれるあの星霊と正反対に、自分は彼を軽くあしらい答えを導き出すことを避けてきた。彼と向き合えば、もう二度と、戻れなくなるのが怖いから。彼に心酔し、溺れて前が見えなくなる。だから考えないようにしていた、のに。

「お疲れ様、僕のお姫様。」
「…………ん?」

優しく頭を撫でられ、顔をあげるとニコニコと微笑んでいる、まさにいま考えている最中だったロキ、こと獅子宮のレオがベッドに腰掛けている。ルーシィの大きな瞳が丸く開かれた。

「な、なんで?」
「え?だって、喚ばれたから。」
「え、よ、喚ばれた?」

いつ?と思ったが、そういえば先程そんなことも呟いたような気がし、ルーシィは一気に顔を紅潮させる。

「そんなに僕に逢いたかった?」
「……………うん。」

いつもならそんなわけない、言葉の文だと言い返すが、今日はとてもそんな気分になれない。むしろ、もっと一緒にいてほしい、そんな可愛らしい気持ちがルーシィの脳裏を占めている。

「……あたし、変なの。」
「…………。」
「ドキドキする…あんたが、あんな顔するから、よ…」
「ルーシィ…」
「体も熱いの…苦しくて泣きそう、ロキ、いかないで、ここにいて。」

今にも泣き出しそうなルーシィがロキに静かに抱きつくと、くい、と顎を綺麗な指が掴む。どんどんロキの顔が近付いてきて、ルーシィはキュッと目を瞑った。

キス、される―







「……………」
「まったく。どこでうつされたんだか…。」

ひやり、と冷たい感覚に、ルーシィは瞑った目をあける。相変わらず至近距離で今にも重なってしまいそうなその唇を動かしロキは呆れたように少し上目遣いでルーシィを見つめた。

「ロ、きゃっ…」
「はい、大人しくしてなさい。」

突然体が浮いたと思うと、ロキは片足でベッドの掛け布団をはらいルーシィを寝かせた。あまり状況が理解できず、ルーシィは熱を含んだ視線でロキを見つめている。

「お粥、作ってくるから少し待ってて。一晩寝れば治ると思うよ、そんなに酷い熱ではないから。でも一応これ。」

戸棚から体温計を取り出しルーシィの口にくわえさせて、じゃあ待っててね、と立ち上がるロキを、ルーシィが不安そうな目で追いかける。それに気付いたのか、白い手をとり甲にキスを一つ落とされ、一気に体がまた熱くなった。

言われた通りに熱を計っていると機械的な音がなり、口から体温計を抜いてみる。

「38.6℃…………」

熱があるとわかった途端、くらくらとめまいがしてきた。急に眠たくなってきたルーシィだが、虚ろになる瞳で天井をぼーっと見つめる。

(そっか、熱があったからあんなにロキにドキドキしたのね。)

だが、なぜロキだったのか?

そこまで考える力はもうなくて、静かに眠りにつこうとしたとき、お粥を持ってやってきたロキが困ったように笑っていた。

「寝かせてあげたいんだけど、これ少しでも食べてからにしてほしいかな。」

今日なにも食べてないよね?

熱のせいだ、と思いたかった。優しく子供に諭すように話してくるロキにさえ、キュンと心臓が跳ねる。だが、日頃どうも、目の前にいる彼にだけ素直になれないルーシィは、いいことを考えた、といった笑みを見せてから口をあーん、と開けロキを見る。ぽかん、としているロキにやっぱり自分が恥ずかしいことをしているような気がして慌てて口を閉じると、珍しく喉をならして笑っているロキ。

「…かなわないや、君には。」
「……どういうこと?」
「いや、今日は素直だなってこと。」
「……だって、風邪だもん。」

ついさっきまで気づいてなかったくせに、と嫌みの一つ二つ言ってくるロキに頬を膨らませてみせるが、差し出されたスプーンにちょっとした不満が驚きにかわる。彼は優しく笑って、あーん。なんて真面目に言っていて、しかもその様がきまってるのだから、ルーシィは(今日だけはいいよね)、と心の中で言い聞かせ、そのスプーンを口にくわえた。






「あー!!すっきり!!!」

昼過ぎ、ようやく目が覚めたルーシィは大きく伸びをして辺りをキョロキョロ見渡す。ロキの姿がないことに、昨日あれだけ素直に彼に甘えたことを今更ながら恥ずかしくなり、なるべく今日はロキに逢わないようにだけと小さく決意した。

「そう、全部熱のせいよ、熱のせい。」

昨日浴びれなかったシャワーへいこうと着替えを持って寝室から出るとキッチンから鼻歌が聞こえてくる。誰かいるのかしら、と少しだけ覗いてみると、こちらに気付いた彼がルーシィ、と嬉しそうに声をあげた。

彼だ。
そうわかった途端、急に体が固まり熱が顔に集まってくる。

そんなルーシィに気づいてか気づかなくてか、ロキはギュッと小さな体を抱き締めその腕に力をこめた。

「ルーシィっおはよう。」
「う、うん、うん、お、おはよう!だ、だから離れ」
「なんで?いつものことでしょ?」
「そそそ、そうだけど、今日はだめ!」


―ジタバタと腕の中で暴れる可愛い人に、僕は思わず口元に弧を描く。
だって、ルーシィ。
今頃気がつくなんて、鈍感とゆうか純粋とゆうか、とにかく全部ルーシィが悪い。

ほら、言ってごらん?
僕は逃げも隠れもしないからさ。

そう言って、ぽってりした唇を強引に奪い取れば、顔を真っ赤にさせて「ばか、」なんて言われた。

ねえ、その顔が答えと思っていいんだよね?


ほんとはずっと前から好きでした


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