わからない。いくら考えてもレオの考えてることなんかわからないわ。

「やあルーシィ、今日も可愛いね。」
「………あんたはいつになったら"喚ばれた時に来る"とゆーのを覚えるのかしらね。」

はぁ、と大きな溜息をつき、お風呂上がりでバスタオルしか巻いてない姿のルーシィはわなわなと震えながら怒りを抑えて、ベッドで我が物顔にくつろいでいる大きな犬―いや、大きな猫、獅子宮の星霊に皮肉めく。だがそんな皮肉など彼に通用するわけはなく、いつものようにへらっと笑って起き上がり(実際には生えてはいないが)尻尾を振って思い切り抱きついてきた。はいはい、と慣れた対応でべりっと大きな細身の身体を自分から離すとルーシィはキッチンの方へ歩いていって冷蔵庫をあけるがレオが触れたところが、妙に熱い。
正直表面上は適当にあしらえど、こういったことには免疫のないルーシィにとって内心恥ずかしくて照れくさくてしょうがない。だがそれをレオに知られたくないし、ましてやレオへの淡い恋心など彼のオーナーとして今後支障なくやっていくためには悟られるわけにいかないとルーシィは思っていた。だからあんな風に抱きつかれたり不用意に優しくされると困るのだ。
もしかしたら、もしかしたらと淡い期待を抱いてしまう。だがレオはカレンを亡くし自分も十分に傷ついた。ルーシィに抱いている好意は恋愛ではなく、今までの淋しさや、カレンに出来なかったオーナーへの信頼もとい愛情表現を、ルーシィへ存分にしているに過ぎない。
そうでなければ、逆に困る。
伝えてしまえば、受け入れられてしまえば、自分は際限なくレオを求めてしまうだろう。彼の全てが欲しいと願ってしまう。それくらい、今自分は彼にとかされている。

「ルーシィ?」
「え?」
「どうしたの、ぼーっとしちゃって。」

冷蔵庫をあけたままぼんやりしていたルーシィに困ったような笑みを浮かべてレオが優しくそう言った。なんでもない、と扉をしめてから、寝室へ行き絶対見ないでねと念押ししてTシャツとホットパンツに着替える。好きな人のがいる室内で無防備に着替えるなんて普通であれば考えられないが彼は帰ってくれなさそうだしいつものことだ、これはもう慣れっこ。
ルーシィがベッドに腰掛けるとレオがにこにこしながら隣に座ってきたのでなんとなく、距離をあけて位置をずらすと「なんで離れるの?」と不服そうに聞いてくるので別に、と答える。きっと自分の顔は今少しだけ赤いだろう。速くなる鼓動も、彼に聞こえてしまわないように努めるのに苦労する。
そんなルーシィの様子に、ふーん、と呟きあ、そうだ、と何かを思い出したような声色でにこっとレオは笑った。

「ルーシィ、アリエスがね。」
「え?ア、アリエス?」

アリエス―レオが昔自分の命をかけて守った気弱な可愛い白羊宮の星霊。ルーシィにとってある意味レオの口から彼女の名が出ることは禁忌だ。適わないと思ってしまうから、入り込めない世界だと実感してしまうから―だがレオがそんなことを知る由はなく、なんの気なしにアリエスの話をし始める。

「うん。アリエス。ルーシィと仲良くなりたいって言ってたよ。」
「わ、私と?」
「うん。」
「そ、そう。」

ああ、やばいな、できれば避けたい、聞きたくない。ルーシィはそわそわと立ち上がり、リビングの方へ歩いていく。それについてくるようにレオも立ち上がりにこにこしながらルーシィの後を追う。

「でも、アリエスあの性格だし、仲良くなるって言っても恥ずかしがってなかなか言えないと思うんだ。」
「………。」
「だから、ルーシィからアリエス呼んであげて欲しいんだけど、どうかな?」
「………。」
「せっかくいいオーナーに会えたんだから、アリエスにもそう思って欲しくて。」

ね?

反応のないルーシィの顔を覗きこんでレオは目を見開いた。丸い大きな瞳には涙が滲んでいる。一瞬言葉に詰まるが落ち着いた声でどうしたの?と問いかければ控え目にポロポロとこぼれ落ちてくるそれを手で拭い、なんでもないと返される。

「なんでもないなら涙なんか出ないよルーシィ。」

困ったようにレオはルーシィの頬に手を伸ばす。その手を払い、ルーシィは口を結んで首を振った。拒絶されたことに寂しそうに笑い、レオは行き場を失った手を下ろす。

「僕には言えないことなのかな。」
「……。」
「いない方がいい?」

一向に止まらない涙に触れることも容されず、否定も肯定もないルーシィに、レオはへにょん、と笑った。

「ルーシィ?」
「…わかって、る。」

わかってる。レオがアリエスに対して抱いてるものは自分にだってわかっている。それは自分がナツやグレイに向けるような気持ちであることは頭では理解している。だが感情となれば話は別で、他の女性ならいつものように呆れたり怒ったりもできたのにどうしてアリエスにだけは胸が苦しくてたまらないのだろう。
ルーシィはテーブルに置いてあった獅子宮の鍵を手にとり、「強制閉門。」と静かに唱えた。

レオの瞳を見ないまま。



このままずっと同じ関係が続くなんてどうして思っていたんだろう。



あなたへのとろけてしまいそうな恋心がたまらなく切ない


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