「ルーシィ。」
「ん?」

トイレから出てきたところで名を呼ばれたので振り向けば、突然唇を塞がれルーシィは目を見開いた。いきなりこんなことをするのは一人しか居ない。いくらここがギルドの端といえ、誰かに見られたら―そう思い、彼の腕を掴んで抵抗するがそのキスの濃厚さに適わず、ルーシィは応えるようにレオを受け入れてしまう。それを確認したレオは彼女のぷっくりした唇を押し開き、舌を差し入れるとそのまま小さな粒を口移し口内全体を舐めとるようにしてルーシィを堪能していく。口の中に広がる甘い味に疑問を抱きながら、あまりにも深い口付けに息をすることが辛くなりルーシィが限界を感じたとき、ようやく顔が離され目の前にはレオ優しく笑みを浮かべていた。

「ふ……な、なあに?」
「僕からのプレゼントだよ♪」

そう笑ってレオは外に出ていくが、こんな中途半端に止められて体の火照りに疼かないわけがない。ルーシィは彼が出て行った扉を顔を真っ赤にしながら見つめ溜息をついた。

「……甘い………」

口の中にあるこれは一体なんだろう。人の手を加えて作られたお菓子ではない気がする。かと言って、こんなに甘い果物も食べたことがない。甘くとろっとした蜜のようなものが口中に広がっていた。

―甘い。

そんなことを思っていると、窓の外にふと、楽しげにナツとグレイと話している恋人の姿が目に入る。さっきまでは自分にしか見せない意地悪な、でも優しい表情だったくせに、もうはや違う顔になっているレオを見てその切り替えの速さにいつもながらルーシィは感心した。

「……何であんなに余裕なのかしら///」

こっちはレオに触れられる度にドキドキしっぱなしなのに。自分ばかりがこんな風にいつも余裕がないような気がする。経験の差なのか性格なのかはわからないが、何だか釈然としないルーシィがじっと大好きな恋人の姿を窓越しに見ているとミラジェーンに声を掛けられたので少しだけ肩を震わせて振り向いた。

「ルーシィ?どうしたの?」
「…え?」
「ロキのこと、熱い視線で見てたから♪」
「///そ、そんなんじゃない、ですよ…///」

実は言われた通りだったのだが、ルーシィは恥ずかしさから慌てて否定した。先ほどの甘いキスのせいで妙に体が熱を持っていることに違和感を覚えながらも平然を装う。

「…あ、そうだ。ミラさん、レオから何かもらいました?」
「?何かって?」
「…えー、と……甘い…果物なのかお菓子なのか………」
「ああ、それなら今ナツとグレイにあげてるんじゃないかしら?ほら―」

ミラジェーンがそう言うので窓の外にもう一度視線を移せば、何やら驚いて嬉しそうにしている満面の笑みのナツとグレイ、ハッピーが見える。ルーシィは首をかしげ、その光景をじっと見つめた。

「あれ、なんなのかしら…」
「ルーシィはもうもらったのね。」
「あ、はい。さっき…」

さっきもらったんです―ルーシィはそう言い掛けたが一瞬忘れていたあのキスを思い出し、顔を真っ赤に染め上げた。まさか口移しでもらったなど口が裂けても言えない。そんな彼女に気付いているのかいないのか、いつものようににっこりと笑みを浮かべ、ミラジェーンはルーシィの背中をぽんっと押す。

「私も聞いてないのよね、なかなか教えてくれなくて。ロキに直接聞いてみたら♪」
「んー…そうします。」

ルーシィは曖昧に返事をし、先程の甘い味を反芻する。痺れるように甘い、砂糖菓子のような果実のような、不思議な甘さと食感。どこかであの味に出会ったような気がする。いや、あれよりももっと甘い…。

「ルーシィ?」
「…あ、レオ………って、きゃあ!!!」

外を歩いている最中考え事に夢中になっていたのだろう。いつの間にかルーシィの顔を心配そうに覗き込んでいるレオが居た。顔の近さにルーシィは間を置いて飛び退く。

「ち、近いってば!!!」
「だってルーシィ、僕に全然気付かないからさ。」

―っていうか、もうすることしてるんだからそんなに驚かなくても。

そう言いたくなるほど頬を真っ赤にして恥ずかしそうにしているルーシィ。そんな、いつまでも初々しい彼女を見つめるレオの切れ長の目が優しく揺れた。

「どうしたの?こんなところでぼーっとしちゃって。」
「あ、うん。さっきレオがくれた…その、あれが気になって…」
「ああ、あれね。星霊界のものなんだ。不思議な食感だっただろう?」
「うん…」
「星霊界でとても価値が高い果物なんだ。メウ フレーズっていう果実さ。向こうではこれをジェレイアにして、お菓子やパンのアクセントでよく使われてる。あと、紅茶に入れたり、ね。」
「ジェレイア…?」
「あー、つまり、こっちの世界でいう、ジャムのこと。たまたま、たくさん手に入ったから持ってきたんだよ。もちろん、一番にルーシィに食べてもらいたくて♪」
「……///だからって……///」

―あんなキス。

その気持ちは嬉しいが、だからと言ってあんな食べさせ方、もといキスをされるこっちの気持ちにもなってもらいたい―そう言えず代わりに頬を染めて俯くと、ルーシィのふっくらした唇にレオのすっとして綺麗な指が添えられる。その指が愛しそうにゆっくりと自分の唇をなぞるたび、ルーシィはあの果実に似た甘い感覚を覚えた。
一方レオは自分達がいる場所がギルドの前だということを忘れて、ルーシィのぷくっとして艶のある美味しそうな唇に自分のそれを重ねる。その拍子にルーシィの口から可愛い声が聞こえた。

「…あ。」
「?」

重ねられた唇がゆっくり離れ、それが触れるか触れないかの距離に居るルーシィにレオは髪を撫でながら「どうしたの?」と問い返した。

「………なんでも、ない///」
「ふ…変なルーシィ。」

帰ろうかと、目を細めて笑うレオはルーシィの小さく白い手を取り歩きだす。一歩先を歩く彼を見つめながら、ルーシィは頬を染めて幸せそうな笑みを浮かべていた。

あの小さな果実の甘さは、レオがくれる甘さに似てる。だけど、彼がいつも自分にくれるものはどんなものよりも甘くて優しい。

―メウ フレーズよりも。

世界中で最も甘いものが何かを、ルーシィはもうとっくに知っていた。

(レオには言ってあげないけど///)
(何か言った?ルーシィ。)
(な、なんでもない!!)




砂糖菓子よりふわふわ甘い


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