―始まりの場所だ。僕らがある種の絆を深めた日、人と人よりも強い絆を得た日の場所。水と風の音しかない静かな場所に、僕とルーシィは来ていた。カレンの四度目の命日。ここに来るたびに自己嫌悪に苛まれて、後悔に苦しんで、その度に泣いていた。だけど今日はやっと、冷静に素直にここに、彼女の前に立てている気がする。瞳をとじて祈るように瞑想しているカレンよりも幼い、だけどカレンよりも強い女の子―ルーシィを、僕はただぼーっと見つめていた。彼女は今何を思っているのだろうか。彼女はまた、僕とは違う立場でいろんなことをカレンに伝えたいのではないのだろうか。ルーシィが大きく息を吸うのが聞こえて、僕は彼女が立ち上がるのを待った。ねえレオ、と、透き通るような優しい声が耳に響く。

「たとえばの話よ。」
「たとえばの話、明日もし、世界から愛が消えてしまったら。」
「人はただすれ違うだけで終わって、誰かが居なくなっても悲しむこともなくなるのかな。」

仲間、友情、家族、恋人。

愛が消えてしまえば、絆は終わりだと言うのも仕方がない。

僕に背を向けてカレンの墓碑の前に膝をついていたルーシィは、立ち上がってふいにそんなことを言い出した。さらさらと風になびく綺麗な金の髪から花の香りが広がっていくがその要因は墓碑に添えられた花の匂いでありそれはルーシィを包み、まるでここから帰さないと言っているようで少しだけ怖くなる。ああ、カレンかなあ。そういえばこの花、カレンが好きな花だった。ルーシィは供えられている花に手を伸ばして花弁を一撫でする。そんな彼女に僕は一歩、二歩と歩み寄り、隣に並んだ。ルーシィを見ずに僕は石に化した小さなカレンを見つめたまま暫く黙って立ち尽くす。愛がなくなってしまったら?そんな世界を見てみたいものだ。カレンだって、あのカレンでさえ僕ら星霊に愛情はあったはずだ。それがあんな風に最悪な形の愛情であったとしても、利用する為の道具でしかなかったとしても、僕らに固執していたのだからそれは歪んだ愛情と呼んでいい。だから愛がない世界だとしたら、人は誰かに固執することすらない。自分すら愛さない。ルーシィの手に自分の手を絡めて、僕はサングラスを取って彼女を見ないままカレンを見て笑った。

「んー、たとえばの話。」
「たとえば、もし、明日愛が世界から消えるとしたら。」
「そうしたら僕はきっと、愛を探しに行くと思う。」

隣にいるルーシィは、驚いたようなキョトンとしたような表情をしている。まるで、愛を探すなんてどうやってと言いたげだ。そりゃ愛を知らないのに愛を探すなんて、見つけられる確率がどれほどのものかは到底わかるはずもないけど、それでも愛がない世界なんか生きている意味がないようにも思えるから。だから、僕はルーシィを離れないようきつく抱き締めた。

「愛が消えてもまた愛を見つける。だから、またルーシィに出逢うよ。」


笑われてもいい。
苦労だって厭わない。
ただ、君に出逢えるなら。

「僕は君を愛してる。」

かつての主人の墓碑の前で静かに重ねられた唇は君に永遠を誓う印―


(愛の無い世界で生きていくことを幸せと呼べるわけがない!!)




あした世界から、愛が消える


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