君が静かに目を閉じた時。
いつか、君が言っていた言葉を思い出した。

『ねぇ、レオ。』
『んー?』
『…10年後、20年後、30年後…ずっとずっと先…あたし達って、どうなってるのかな。』
『………どうしたの、いきなり。』

小さな手を僕の手に絡めて天井を見たままルーシィはポツリと呟いた。僕は彼女の手をぎゅっと握り返して問い返す。ルーシィが急に、答えが見えない答えにくい質問をしてくるのは稀じゃない。質問というよりは、自問自答に近いのかもしれないがいつも一緒に考えていた。

『あたしがおばさんになってもおばあちゃんになっても、レオと一緒に居られるのかな。』
『そんなの決まってるよ。僕とルーシィはずっと一緒だって。』
『……ふふ、そうだといいなぁ。』

あの頃の僕は、まだよくわかっていなかったのかもしれない。ルーシィとの時間が永遠に続くと信じて疑わなかった気持ちがどこかにあった。僕達はずっと一緒に居た。辛いとき、悲しいとき、嬉しいとき、楽しいとき―繰り返し訪れる365日全てを過ごしてきた。




『…レオ…』
『んー?』
『あたしね…昔のことを思い出していたの…』
『…昔の?』
『そう……』

ルーシィの声がだんだん消えていくように小さくなる。僕は彼女の皺だらけの手を取り、ベッドの横に座って顔を見つめた。相変わらず色白のルーシィが目を細めて微笑んでいる。もう昔の彼女とは掛け離れていて、これが老いるということなのだと改めて思った。僕は、不思議と怖くなかった。もうずっと前から、わかっていたからなのかもしれない。

―人は必ず死を迎える。

『レオが居て、ナツが居て、グレイが居て、エルザが居て、ハッピーが居て、あたしが居て………』
『ああ…』
『……楽しかった、なぁ……』
『……そうだね…』
『……レオ…』

ルーシィの柔らかな瞳から涙が伝うのを見て、僕の目頭も熱を帯びるのを感じた。もうずっと一緒に居るんだ、お互いが何を想っているのかすぐにわかる。彼女は僕を置いて逝ってしまうのだ。

『…ありがとう…』

―そのままルーシィが静かに目を閉じ、覚めない眠りについたのはもう30年も前のことだった。






「…だから人間がお嫌いですのね。」
「…人と星霊は相容れない。お互い、苦しくなるだけだ。」
「…確かにそうかもしれませんわ。」

かつて愛した金髪の少女とは一見真逆な清楚で美しい、桜色の髪をした新しい契約者は僕の力ない手を取り、自分の手に絡めた。彼女の紫色の瞳が真摯に僕を見つめる。穏やかな笑顔はどこまでも優しく、僕の心を温かくする。ああ、話してしまった、話したくなかった、これを話したら僕はきっと―

「人と星霊は確かに別世界に生きていますが…一緒に歩くことは出来ますわ。」
「…!」
「レオ。わたくしは貴方のことを愛しています。」
「ルイス……。」
「それだけではいけませんか?」

きっと、彼女を愛してしまうから。このとき初めて、僕は柔らかく笑う契約者の細い肩を腕の中に収め、金髪の少女を記憶の奥底にしまいこんだ。


僕はまたここから愛することを始める―



始まりの記憶


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