甘い香り、甘い味わい、僕の全てを麻痺させるそれは一種の麻酔かそれとも抜け出せなくなる麻薬なのか。隣で心地よさそうに眠る彼女の柔らかい髪に触れれば気持ちよさそうに身をよじらせ、寝惚けながら僕の手に自分の手を絡ませてくる。その手を握り返せば壊れてしまいそうな程に小さく細くて、全霊をぶつけてしまえばたえきれなさそうな華奢な身体が脳裏に反芻される。どうにもそのまま無性に彼女を感じたくなって、白い頬に額に、ふっくらした唇に僕はやわらかに口付ける。眠りが浅かったのか愛しい人はくすぐったそうに笑い、ゆっくりと金色の睫毛に縁取られた瞼が開かれてミルクブラウンの瞳にうっすら僕が映った。至極眠たそうなぼんやりとした瞳は、奥底にある不安感を打ち消すように、確かに僕だけに向けられているものだった。

「…ロキ?」
「おはようルーシィ…。」
「おはようって………どうしたの?眠れない?」
「んー、眠れないってわけじゃないんだけどね。」
「??」

まだ深夜を回って然程時間は経っていない。日付が変わる前にくたびれて眠りに落ちたルーシィをいつまでも見ていたくて、彼女が自分の隣にいるのが夢じゃないと感じていたくて。それでも、眺めているだけでは満たされずに僕の手は柔らかな髪や頬や肢体に伸びていき、自分の中のとめどないルーシィへの欲に自嘲気味に笑ってみたりして。寝起きでよく状況がわからないらしいきょとんとしているルーシィにくすくす笑いながら、僕は耳元で囁いた。

「もっとルーシィを感じたい、見ていたい。君の全部が……欲しいだけ。」
「ロキ…。」

ルーシィの額に自分の額をつけると彼女の温かい手が僕の身体を抱き締めた。甘い、甘い魔法のよう。そのまま再び閉じられた瞼にキスを落とすとそういえば、とルーシィが口を開く。

「あのね、私夢を見たの。」
「夢?」
「そう、ロキが泣いてる夢。」
「……ルーシィじゃなくて?」
「ううん、ロキよ。今までも悲しい夢はたくさん見たけど、今日の夢が一番切なかった。ロキが泣いてるのを見るのは悲しいの。」

だからロキ、泣かないでとルーシィの白く長い指が僕の唇をなぞる。それだけなのに、僕の身体は熱を帯びていき、彼女が放つ甘い香りに我慢できなくなって、首筋に噛み付くように紅を散らした。途端にルーシィの顔が真っ赤になり、口からはこらえきれない声が洩れる。その声がたまらなく可愛くてもっと聞きたいという衝動と、逆に塞いでしまいたいという衝動が入り混じり、理性がどんどん崩れていく。潤んだ瞳で下から僕を見つめるルーシィは、それが僕の加虐心を煽るだけだと知らないらしい。

「やっ…ロキ…」
「っ…ルーシィ……!」

流れる涙が、透き通るような声が、柔らかい肌が。ルーシィの全てが僕を狂わす。何度も名前を呼んでは瑞々しい唇に口付け、細い線に指を這わせた。そのたびに彼女の身体が跳ね、僕は彼女の甘い香りにいちいち反応する。そのむせるほど甘い時間にいつもは感じない、胸がつかえるような感覚を何故だか今日はおぼえたんだ。

(このまま君と溶けていけたらと本気で想った。)



むせかえるような甘ったるさに僕は、


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