―夢の中で甘い、けれど刺激的な香りに鼻が擽られた。

「あ、おはよう。」
「……おはよう…」

起き上がり、ぼーっとしながらキッチンに向かうと金髪の少女が笑顔で振り向いた。その首には紅い花が散っている。それは昨夜自分で彼女に刻み付けたものではあるのだが、冷静になるとなんだか恥ずかしくなりレオは僅かに頬を染めて慌てて首元から視線を逸らす。どこぞの童話に出てくるお姫様のような、もっといえば(黙っていれば)人形のような可愛らしい整った容姿の少女を抱き締め髪に優しくキスを落とすと、部屋に充満する香りにあの香りは夢ではなかったのだと朧気に実感した。

「…シナモンの香り。」
「あ、うん。ミラさんにシナモンティーが美味しいし香りもいいって言われて。レオと一緒に飲もうって思ったの。」

あれ、シナモン嫌いだった?と首をかしげるルーシィに、好きだよとへにょりと笑いながら応えると、ホッとしたようにティーカップに紅茶を注いで行く。その指先を見ていると、昨夜自慢された綺麗に手入れされている爪にああそうか彼女なりにきっといろんな努力をしてるんだろうなと、その時は気が付かなかった恋する乙女の並々ならぬ努力とやらに満足そうに笑みを浮かべる。やあだ、なに笑ってるの、と眉尻を下げて笑うルーシィのこの表情はレオが好きな表情だったり。ああ幸せだなあと口元が弛むのを抑えきれないので両手で顔を隠したりしてみて、うん乙女かと思わず突っ込みたくなる。

「身体を温める効果があるから、寒くなってきたし美味しいみたいだし丁度いいかなって。」
「ありがと。顔洗ってくる。」
「うん、あ、あと寝癖もね。」

ルーシィはくすくす笑いながらレオの髪のはねている部分に触れた。少し頬を染めて、焦って洗面台の方へ向かう彼が何だか可愛くて、胸が擽ったくなる。こうして彼とのんびり過ごすのは随分久しぶりじゃないだろうか。ここのところ立て続けに仕草やらギルドをかけた争いやらで落ち着かなかったし彼自身重症で1ヶ月以上完治に時間が必要だったりしていた。本当に、今日みたいな日は久しぶりなのだ。洗面所から戻ってきたレオはやっぱり寝癖は多少残っていて、ルーシィは子供みたい、と笑った。

「もうお昼回ってたんだね。」
「そうよ、14時ね。」
「…起こして良かったのに。」
「ぐっすり眠ってたから、悪いかなぁって。」
「……けど、ルーシィと一緒に居る時間はたくさんあった方がいい。」

不貞腐れるレオがおかしくて、テーブルに紅茶を置いてからルーシィは彼が座るソファーに近寄り後ろからレオの首に腕を回してみた。レオの身から漂うシナモンとは別の心地よい香りに、瞼を閉じる。

「時間ならたくさんあるわよ。」

―永遠にとは言えないけれど、時間の許す限り私は貴方の隣に居る。

「…じゃあ明日もこうして二人でいようよ。」
「あー、まあそうしてたいのは山々だけど明日はナツと仕事に行くじゃない、忘れてたの?だから今日はゆっくり休んでよね♪」
「……。」

明日の仕事は50万!!などと目をキラキラ輝かせているルーシィを見て、忘れていたわけではないが彼女とこうして微睡む時間が明日も明後日も続けばいいのに―と思うレオ。立ち上がりソファー越しに彼女の身体をふわりと抱き上げて自分の隣に立たせ優しく抱き締めた。

「…///レオ……?」
「じゃあ今日は明日の分も愛してあげる♪」
「///ちょ…!!」
「―まずは、あれを飲んでから、ね?」

テーブルに置かれたカップに目をやってから、レオはシナモンが香る部屋の中ルーシィに静かに口付けた。


(君と二人で過ごす休日はいつも刺激的で、そして甘い。)




シナモンの香る休日


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