「あー!!流れ星、見て!!」
「ルーシィ、流れ星は一瞬だから見てって言われても…」

部屋のバルコニーではしゃぐルーシィにそれまで窓際の壁に寄りかかりながら、夜空を見上げる彼女を見つめていた僕は苦笑いで近づいた。鼻をほんのり赤くしたルーシィを後ろから抱き締めれば、どうしたの?と可愛らしい声が返ってくる。季節が夏から秋に変わりひんやりした空気にさらされていたその身体は少し冷たい。

「あたしね、昔は夜が嫌いだったの。」
「どうして?」
「だって真っ暗になるでしょう?孤独で誰とも逢えなくなる気がして……吸い込まれちゃいそうで、怖かったの。」
「……今は、怖くないの?」
「うん。3年前かなあ、お父さんと喧嘩して家を飛び出したことがあったの。いつもは部屋にこもるんだけど、その日は外に出ていきたくて。」

3年前―その言葉に僕はぴくりと眉を動かした。まだルーシィは知らない、3年前の出来事と真実。そんな僕の複雑な心情など知らない彼女は懐かしそうな表情で続きを紡いでいく。

「なんでわかってくれないんだろう、なんでお父さんはああなんだろう、とかイロイロ考えてたの。もうあんな家になんか戻りたくない!!とか…泣きながら。だけどふっと空を見たの。その時ね、真っ暗な空にたくさんの星が浮かんでて…しかも、星がたくさん降ってた。」
「………。」
「あたしその時初めて、夜の空があんなに綺麗なものだって知ったの。空にはたくさんの星がある。その光が世界を照らしてくれている。そう思ったら夜なんか全然怖くないんだって思った。その日はね、流れ星がだんだん減ってきたときに見えた星座が獅子座だったの。おっきくて本当に綺麗だった。あたしにとっては、流星群よりも綺麗に見えたんだあ。」

ルーシィの笑顔に僕は穏やかに笑みを返す。だけどやっぱり、3年前のたくさんの流星…獅子座……彼女が見たのはきっと、もう空に上がることができない烙印を押された獅子の星が地上に堕とされた瞬間だ。

―僕が〔ロキ〕として生きて、〔ロキ〕として消えて行くと決めたあの日、君は本当の僕を、〔レオ〕を見つけてくれてたんだ。

「あたしね、それからなのよ?星霊魔道士になりたいって思ったのは。」
「……初耳だ。」
「そうよ、だって誰にも言ってなかったもの。ロキが一番最初!」

ルーシィの大きな瞳が優しく揺れ、僕は無性にルーシィを離したくなくて力を込めて彼女を抱き締めた。細い肩に顔を沈めてそのまま目を閉じる。風呂上りのシャンプーの香りが僕の鼻腔を擽った。

「…ロキ?」
「……もう少しだけこうしてたい。」

秋の寒さに、これから訪れる冬の寒さに負けない温かい心を持った彼女。ルーシィと一緒に居ると、僕はいつも許された気持ちになる。本当はそんなこと思っちゃいけない。何より誰かを愛すなんてあってはいけないことだ。それでも、彼女を特別だと思ってしまった。あーあ、だから嫌だったんだ、ルーシィと関わるのは。こんなに好きになって、こんなに好きになってもらって、別れるときが来るのがわかってるのに…。

身体中の魔力の粒子がどんどん消えていっているのが自分でもわかる。僕が〔ここ〕に形を留めておける時間はもうあと僅か。だから、ルーシィが僕に愛情をたくさんくれるたびに幸せな気持ちが生まれると同時に、どうしても不安と、罪悪感が消えないでいた。

―僕が今でも抱いている、大事な人を失った気持ちを少なからず彼女も抱くことになるから。

「…ルーシィ……。」
「なあに?」
「僕は絶対に、君を一人にしないよ。」

―たとえ身体が消えたって、君が寂しくないようにずっと空から君を見守る。

「ふふ、なんか変なロキ。でも、ありがとう。大好きよ。」

そう柔らかく笑い、ルーシィは僕にキスをした。


(大切な、寂しがり屋な君を一人になんかしない。)



この星がいつか消えたって君を離さないと決めたんだ


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