「ロキ、お待たせ!」
「カナおそーい。」
「ごめんごめん、って大して待ってないじゃない!」
「あ、ばれた?僕も今来たとこなんだ。」

相変わらず屈託のない笑顔を見せるレオにカナもつられて笑顔になる。星霊だとわかる前から仲の良かったカナとレオは変わらずに今日も2人で仕事に行く約束をしていた。もちろんルーシィには内緒だったりする。なんとなく内緒だ。道を歩きながらカナはにやりと笑みを浮かべてレオの顔を覗き込んだ。

「ルーシィにばれたら怒られるんじゃない?」
「んー、あはは。今日は暫くおきないから大丈夫だと思うよ(昨日の夜ちょっといじめすぎちゃったしね。)。」
「ふーん?よくわかるのね。」
「そりゃあ契約者だし、恋人だし?」
「はいはい、じゃあ行くよ。」

このまま話を聞いていれば終始惚気られそうな気配を感じてカナはレオを促した。よく晴れた空には雲が一つもない。まさに仕事日和だがレオはこんな天気のいい日にルーシィではなく他の女性といることが少し残念でもあった。そんなことを口にすればカナに叱られそうなので黙っていたが。こんなことなら今日二人でどこかへ行って帰ってきてからいじめれば良かった、と検討違いな後悔をしてみたり。

「今日は依頼主の代わりにちょっと洞窟の奥の天然石をとってくるだけだから簡単な仕事でしょ?たったそれだけで30万!」
「へーえ、それは簡単だね。」
「でっしょー?まあそんなにうまい話があるわけないから一応あんたにもついてきてもらったんだけど。」
「わかってるじゃん。その仕事出掛けにもう一回見てきたら報酬額70万に跳ね上がってたよ?」
「は?!なんで?!」

カナはレオがぴらっと持っているチラシを見て目を丸くした。確かにその依頼書には「報酬70万」と記載されていてカナが当初見た額の倍以上になっていた。羽振りがいい依頼主なのか、危険がそれだけ高いのか…大体は報酬が高ければ高いほど後者になるので今回も例外ではないようだ。レオが特に表情を変えずにうーんと唸る。

「僕達がこれから行く洞窟、アフガリオンの洞窟だろ?最近人が帰ってこないって噂だから危険度が高まってるんだ。だから依頼主が報酬額上げてくれたみたい、ラッキーだね。」
「ラッキーなの?なんかめんどくさい仕事請けちゃった感じするんだけど。」
「まあいいじゃん、その分報酬もいいんだし♪」
「そうだけどぉ…」
「あ、見えてきた。」

街から割りと近い場所に位置するその洞窟は普段は職人達が鉱石を採りに来るのでにぎわっているが今日は鬱蒼としていて不気味な気配を漂わせている。カナは明らかに嫌そうな顔をしてレオの腕をぎゅっと掴んだ。

「ここってこんな気味悪かったっけ…?」
「もっと活気づいてたと思うけど……カナ、もしかして怖いの?」
「こ、怖いわけないだろ!!さっさと終わらせて報酬もらいにいくよ!!」

かっと頬を朱に染め、ずかずかと一人で洞窟に入っていくカナを後ろから見つめるレオはくすっと笑みをこぼした。普段弱い部分を見せることを嫌うカナが実はオカルト系は駄目なことを知っているレオ。こういう場所を彼女があまり好まないことも十分わかっていた。

「カナー、一人で行くと危ないよ♪」
「…///あんたってやっぱ性格悪いよ!」
「そう?」
「…ムカつく!!///」
「ほら、はぐれたら困るから僕に掴まってなよ。」

なんだかんだ言いながらも優しいレオにカナは今度は先程とは違う種類の朱で頬を染める。不覚にもドキッとしてしまった自分に内心で舌打ちをしながらこの男のこういうところが女性に誤解されるんだと毒づいた。

「あんたって、そういうところが駄目だと思うよ。」
「え?何が?」
「いや、別に。あたしなら大丈夫だから早く行って!」
「はいはーい。」

結局レオが先頭で光を照らしながら洞窟内を進んでいくことになったがアフガリオンの洞窟はさほど複雑なつくりはしていないことと、天然石が埋まっている場所が明確なためすぐに目的地に着くことが出来た。少し広い空間に行き着くとそれまで屈んでいた二人も楽に背を伸ばすことができるほど、高い天が広がる。

「うわぁ…綺麗…」
「天井全体が天然石なんだ…」

暗い中に蒼く光る石達がまるで呼吸をして生きているかのように見え、星空を見ている感覚にとらわれ暫く見とれていた。

「ちょっとロキ、見入ってないで手伝ってよ!」
「ああ、ごめんごめん。えーと、一番大きい、質のいい…ってそんなの素人目でわかるわけないんじゃない?」
「確かにそうよね、大きさはなんとかなっても質までは…」
「つまりそうゆうことか。」
「え?」
「石を持って帰ったら確かに報酬はもらえるけど質がよければ最大で70万ってことなんだよ。」
「ええ?!じゃああまり質が良くないものなら大した額はもらえないってことじゃない!」
「最低額はあると思うよ、ただ高い報酬を望むなら良いものを採ってこいってことさ。」

一一鑑定屋でもいく?なんて冗談めいたことを抜かすレオにカナは溜息をつきやはりめんどくさい仕事を選んでしまったと後悔した。

「そんなちまちましたことしてらんないよ、素人目に判断して選んで持っていくしか…「!!!カナ!!後ろ…!!!」

レオの声にえ?と後ろを振り向くカナは巨大な蠍がすぐ背後に迫ってきていたことに驚愕した。針を振るわれもう駄目だ…と思った時身体が何かに包まれた感覚。そっと目を開けるとすぐ前には自分じゃない腕。

「……?」
「全く……カナも一応女の子なんだからいきなり襲いかかるのは失礼だろ。」
「い、一応って……!!!」

レオの言葉にムッとして言い返そうとしたカナだったが、彼の顔色を見てハッとした。その顔は青白く冷や汗が頬を伝っている。レオの様子から、自分を庇って毒を受けたのだと頭の中にぼんやりと認識した。

「ロキっ…!!」
「これくらい、大丈夫さ…でも…ちょっとドジったな…」
「…っ…ばっかじゃないの!!なんで庇ったのよ!!」

腕を抑えながらこんなときでもはははっと笑って見せるレオにカナは肩を震わせて大きく叫んだ。しかし彼は動じることなく獲物を見つけ、様子を伺っている静かに佇む蠍をじっと睨みつける。

「…ここの洞窟から帰って来ない人が最近絶えないっていうのは…こいつのせいみたいだね。」
「え…」
「カナ、僕が光で目を晦ますから…その隙にカードで錯乱させてくれ…トドメは僕が…」
「そんな身体で無理じゃないっ!」
「大丈夫…僕はこんなところで終わるわけには行かないからね。」
―僕が居ないと泣いちゃう人が居るから。僅かに微笑むレオが想うのはきっとあの寂しがりな少女のこと。カナは胸の奥が少し軋んだ気がしたがすぐにカードを構えて巨大な蠍を見据えた。

「…わかったよ、あんたの言う通りにする。」
「うん…じゃあ…行くよ!!」

レオはぐっと起き上がり、獅子光耀で洞窟全体を明るく照らす。突然の光に怯んだ蠍が尾を下げ、針を引っ込めたと同時にカナが容赦無くカードを空中に舞わせ、標的の目を錯乱させた。

「ロキっ…!!」
「…獅子戦吼!!!」

レオが空中に向かって拳を突き出せば、その空には彼の守護神である獅子が描かれ蠍を食い尽くすかのような画が舞い、大気が揺れるほどの大きな衝撃が標的をなぎ倒す。そのまま動かなくなった蠍を暫く二人は黙って見つめていたが、レオはついに毒が全身に回ったのかふらりとその場に倒れてしまった。

「……ロキ!!!」

カナが慌てて駆け寄り心配そうにレオを抱き上げると、うっすらと目を開けてにこっと笑う獅子。紫色になっている唇が開かれ、手を差し出した。

「……蠍の額に…これが刺さってた。」
「これは…」
「…かなり光度が高い天然石だと思う。痛みで暴れていただけなんだ…殺しては居ないから、きっと、目を覚ました頃には元の温和な洞窟の主に戻ってるよ…それに…これなら報酬…」
「ロキ!!!」

言い終わる前に気を失ったレオの名前を何度も呼ぶが返事はない。そのまま光に包まれた彼の身体が透けてゲートに吸い込まれていく。今までも、もう彼が人間ではなく自分達とは違う星霊なのだとわかっていたつもりだった。しかし、カナは今初めて、今目の前に居た彼が星霊だったんだと本当に理解できたような―。

「………かっこよすぎんのよ、あんたは。」

軽く笑いながら、そんなことを呟きカナは洞窟を後にする。出入口に差し掛かり、眩しい光に眉間に皺を寄せるが、その目はすぐに大きく開かれた。

「………きれい……」

飛空挺から流れ出る一本の線が空に浮かぶ。どこまでも続くそれは、はっきりと色濃く、青の中に白を刻んでいた。これが、飛行機雲なのかとカナは嬉しそうに目を細め、門に吸い込まれて行った獅子の皇子を思い浮かべる。優しく、強く、そして繊細な獅子が忠義を尽くすのはたった一人。

「…早く治してきなさいね、ばーか。」

―また一緒に仕事をしたいから。あんたの話をもっと聞きたいと思ったから。

カナの呟きは、レオに届くことはないがそれでも彼女の心には確かに刻まれる。まずは彼が溺愛しているお姫様に謝らなくてはならない。きっとあの様子では暫く出てこれないレオをルーシィは心配するだろう。

カナは大きく伸びをして、ギルドに向かって走りだした。

飛行機雲

(それは、たった一人に忠義を尽くす貴方の心模様。貴方と彼女の絆に足を踏み入れられる人は居ない。)






飛行機雲


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