すっきりと片付いた部屋はどことなく寂しい空気を匂わせた。
「…なによ。綺麗にしてるんじゃない。」
―ていうか、あいつ星霊なのになんでまだ部屋借りてるわけ?!
ルーシィは荷物を置き、キョロキョロと辺りを見回すとソファーに腰掛けた。『いつでも来ていいよ、もちろん僕が居ない時でもね♪』と、星霊もとい恋人の彼は言っていたが、まさかこんなにいい部屋に住んでいたとは思わなかった。
上層に位置する部屋の為、リビングの大きな窓からは街の夜景が地上に星がばらまかれたかのように散らばっているし、キッチンもリビングもかなり広い。一人で暮らすには広すぎる部屋―何故こんなに広い部屋に暮らす必要があったのか、ルーシィは疑問で仕方なかった。
「…まさか、連れ込んだ女の子を喜ばせる為…?」
―ありえなくもない。
女の子が大好きなロキのことだ。ミラジェーンやカナの話によると女の子と居ない日は一度もなかったらしい。しかも、毎日4、5人は連れていたそうだ。もしかすると彼女達を連れ込み、楽しく過ごしていたのかもしれない。そう考えると胸がもやもやする。
「いやいや、ないでしょ!ないない…信じないでどうするのよ!いやでも…」
「ルーシィ?」
「ひゃあ!!!」
突然視界に渦中の彼が現れ、ルーシィはびっくりしてソファーから落ちる。その腕を取りロキは小さく笑って金髪の少女を座らせた。
「来てたんだね。」
「だ、ダメだったかしら?」
「いや…まさか来てくれるとは思ってなかったから。」
「……来るわよ。誰かさんがまた、あたしが呼んでないのに来るのと一緒でね。」
「はは…なんか機嫌悪いね。」
ロキは戸惑ったように、だが優しく笑いながら慣れた手つきでコーヒーを煎れ、ルーシィに手渡した。気持ちを見透かされて恥ずかしくなったのか、少し頬が桃色に染まる。くすくす笑いながら、キッチンのシンクに寄りかかる姿が様になっていて、ああ、やっぱりこの男は身のこなしから優雅だ、と再認識する。
「ルーシィはわかりやすいから、すぐわかるよ。」
「わ、わかりやすいって…」
「顔に全部出るから。で、何に怒ってたの?」
「………///」
爽やかに笑みを見せるロキを見てたら、自分が想像の彼の過去に妬いてた、などとは言いずらく、ルーシィは目を泳がせる。そんな彼女の様子に小さく溜息をつき、ロキはカップをテーブルに置き呆れた表情で見つめた。
「まあ、大方僕が昔この部屋に毎日たくさんの女の子を連れ込んでたって疑ってたんだろ?」
「べ、別に疑ってなんか………!!!!」
「ホントに?」
「………。」
「疑ってたでしょ?」
「……はい。」
少し鋭くなった声色に、ルーシィはおずおずと自分が彼を想像の中で疑っていたことを認めた。ロキは一瞬だが寂しそうな表情を浮かべ、自嘲気味に笑う。
「ははは…ひどいなルーシィは。」
「だ、だって!疑われるようなことしてたじゃない実際…」
「まあ、それもそうか。でも安心してよ。この部屋には誰も入れてないから。」
「え?」
あっさりとそう言うロキの言葉を素直に受け止めることができずにルーシィは耳を疑って問い直す。このロキが、女好きのロキが部屋に女を上げていないなんて考えられない―そんな考えまでもが伝わったのか、ついにロキはムッとしてルーシィの頬を両手で軽く引っ張った。
「ホントだって。なんで好きでも無い子達をここに連れてこないといけないのさ。ここは僕が安らげる場所だったんだから、簡単に誰かを招きいれたりしないよ。」
だからルーシィが初めて。などと言ってみせ、ロキは今度は優しくルーシィの頬に触れた。いつも冗談ばかり言う彼が僅かでも真剣に自分の気持ちを見せてくれたことに、ルーシィは身体が熱くなる。
「…じゃあ…ホントにあたしがはじめて…なの?」
「信じられない?」
優しく微笑むロキに、ルーシィは大きく頭を振る。そんな彼女を見て、獅子はくすっと笑い自分の腕の中に閉じ込めた。
「僕が好きなのは、欲しいと思うのはルーシィだけ。だから安心して。」
「うん…ごめんね、ロキ。」
少しでもロキを疑い、勝手に嫉妬してしまった―ルーシィは、まだまだ自分は子供だなぁと反省する。が、その反省の想いは次の瞬間後悔に変わった。
「さ、ルーシィ、どれ着たい?」
「え?」
「え?じゃないでしょ?勝手に妄想して僕のこと疑ったんだからそれなりの罰は受けてもらわないと!」
「え、いや、ロキ?」
「セーラー服なんてどう?いや、チャイナドレスのルーシィを無理矢理…ってシチュエーションもいいかな?浴衣も可愛いし…メイド服で奉仕してもらうっていうのもいいよね。」
ルーシィの手を掴んで隣の部屋にすたすたと歩いていき、ぶつぶつと呟きながらクローゼットを開けるロキ。恐る恐る中を見ると、ずらりと並んだコスプレ衣装。ルーシィは蒼白して涙目でロキを見つめた。
「さ、ルーシィ早くこれ着て♪」
ロキが差し出してきたのはメイドのコスプレ衣装。彼が家を引き払わなかったのはコレが理由だったのか―ルーシィが口を開こうとするとキラキラと笑顔を向けて無言の圧力を掛けてくるロキに、二度と彼を疑わない、と固く心に誓ったルーシィだった。
(後悔先に立たず)
(だから1ミリも動けない)
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