「あの、ルーシィ…?」
「…触らないで。」
ベッドで本を読んでいたルーシィの元にいつものように現れた獅子の皇子様。へにょん、と幸せそうに笑いルーシィに抱きつきキスをしようとした、そのとき。ルーシィの手がレオの顔に当てられキスを拒んだのだった。
「……あの、なんか怒ってる?機嫌悪い。」
「別に…アンタは悪くないから…。」
そう。レオは悪くない。
というより、誰も悪くない。
「ルーシィ。」
ふわっと、レオの腕が、後ろからルーシィを抱きしめる。優しい香り、ルーシィが大好きな香り。その腕に、ポツッと涙が一つ落ちた。
「何で、泣いてるの?」
「…泣いてなんか…」
「ちゃんと言ってくれなきゃわからないよ。さ、言ってごらん?」
言えない、言えるわけがない。
「ルーシィ、様。」
「ん…え?アリエス?」
「は、はぃ…す、すすす、すみません…寝てらしたんですね!」
「ふわぁ〜…いいわよ別に。起こしてくれて助かったわ。で…どうしたの?」
レオといいアリエスといい…カレンと契約していた星霊達は勝手に出てくることが身体に染み付いているのだろうか。ルーシィはいつも決まって出てくる獅子の代わりに現れた白羊ににっこりと笑みを見せた。
「きょ、きょきょきょ、今日は相談が…ありまして…」
「相談?あたしに?」
「はははぃぃ…///ル、ルーシィ様が一番…その…知ってるのかな、なんて…///」
あ、なんか嫌な予感。
「な、にを…」
「その……か、彼のこと…///」
ああ、やっぱり。
やっぱりそうなのね。
顔を真っ赤にしているアリエスの顔は本当に幸せそうで本当に、『恋する乙女』という言葉がぴったり。
ルーシィはもやもやとした感情を抱くが、それを出さないようにアリエスに問いかける。
「アリエスは…恋、してるの?」
「…///…そのぉ……は、はぃ……///」
ぼぼぼっと、ますます赤くなっていくアリエスにルーシィは自分もつられて赤くなる。
可愛くて、もっと自信を持ってもいいはずなのにそれなのにいつもおどおどしていて、何かに怯えているかのよう。こりゃあ男が護ってあげたい、と思うわけだ。
(レオが…この子をカレンからどうしても護りたかったのもわかる気がする…)
だけど、だけどカレンの気持ちもわかる気がする―と、ルーシィは思った。もし、カレンがレオに星霊と契約者以上の気持ちを持っていたら?もしもほんの僅かでも、ヒビキと同じようにレオのことを大切に思っていたとしたら?
だとしたら、レオの愛情を一身に受けていた、レオが身体を張っていつも護っていた彼女のことを、酷い扱いをしたくなる気持ちも女としてわかるような気もするのだ。
ずるいのよ、この子。
「あの…ルーシィ様…?」
「あ、ああ…ええ。で…えーっと…つまりその、恋の相談…ってことよね?」
「は、はぃ…///」
ああ、なんて可愛いんだろう。女の自分でも過ちを犯してしまいそうになるのに、男なら―あの万年発情男なら押し倒してしまっていても不思議ではない。
(だめだ…むかむかする…あたし、重症かも…)
「私…こ、こんな気持ち初めてで…その…どうしたらいいのか…」
うんうん、わかるわその気持ち。
私だって初めてよ。
誰かを護りたいと思ったのも。
傷つけたくないと思ったのも。
愛しいと思ったのも。
全てが初めてで。
「だけどなかなか逢えなぃですし…」
うんうん、なかなか逢えない。
―?なかなか逢えない?
「だから、たまに少しでも見れるだけで幸せ…だったんです…この間までは…」
たまに?少しでも?
星霊同士、あっちの世界でいつでも逢えるわけではないのだろうか。ルーシィはアリエスの言うことがよくわからないまま話を聞き続けた。レオはそんなに忙しいのか?いや、自分の所に毎晩来るくらいだし、しょっちゅうギルドにも遊びに来ているし忙しさは微塵も感じさせない。
「だけど…私…うぅ…この間彼が女性と親しく話しているところを見てしまって…」
「そんなの、あいつ日常茶飯事じゃない?女好きだし…」
「!!!そ、そそそ、そぅなんですか?!!!」
「そうなんですかって…アリエスもよく知ってるでしょう?」
「し、知りませんよぉ…だって…名前だってこの間初めて知ったんですぅ…」
名前を初めて知った―?
そこまで言われて、どうやら自分が想像している彼女の好きな人と、彼女が言う好きな人がどうやら違っているらしいことにようやく気がついたルーシィは、困惑した表情でおそるおそる尋ねてみた。
「…ごめんアリエス…あなたの好きな人って、レオじゃないの?」
「えぇ?!レオ?!ちちちち、違いますぅうう!!レオはルーシィ様とお付き合いしているじゃないですかぁ!!」
「え…し、知ってたの?」
「皆知ってますぅ!だってレオったらルーシィ様の話ばっかりですから…」
「…///そ、そお…。」
ということは、一体アリエスは今まで誰のことを言っていたのだろう。
「わ、私の好きな人はその……グ、グレイさん、です!」
「グ、グレイぃ?!!!!!」
衝撃の告白に思わずルーシィはソファーからずり落ちた。あまりの驚きに腰が砕けてしまい立ち上がることが出来ない。
「グレイって、あのグレイ?」
「はぃ…///」
ああ、どうしてカレンと契約していた星霊2人は揃いも揃って人間に恋に落ちるかな―。
「……い、意外すぎるけど…でもなんとなくわかるかも…。」
「グ、グレイさんって、親しくお付き合いしている女性っていらっしゃるのでしょうか…///」
親しく―エルザはただの幼馴染で普段は恐れている存在。ミラジェーンにはフリードが居るし、彼女を好きならとっくのとうに想いを告げていても不思議ではない。ジュビアのことは鼻から相手にしていないとも思うし、カナのことは女としてみていないのも知っている。レビィのことは妹のような扱いをしているし、ビスカにはアルザックが居るし、あたしにもレオが居る。というより、散々相談に乗ってもらっていた気がする。となると―。
ぐるぐると考えていると、そういえば…と、つい先日のことを思い出しじっとアリエスを見つめた。突然凝視され、アリエスは白い肌をぽっと桃色に染めると、もしかして…と不安そうな顔色を浮かべた。
(そういえばこの間、アリエスは勝手に出てこないのかとかなんとか聞いてきたっけ…)
そう。つい先日、グレイにアリエスのことを聞かれたことをすっかり忘れていた。グレイが自分の星霊でレオ以外の誰かを、しかも女の子の星霊を気にするなんて珍しいこともあるな、程度にしか思わなかったけれど。
もしかして、もしかすると―。
「居ないとは思うけど、本人に直接聞いてみたら?♪」
にやっと笑い、ルーシィはアリエスの額をぴんと指ではじくと、バスルームへと向かった。
後ろからは、「ル、ルーシィ様ぁ…///」とかわいらしい声が聞こえてくる。
ほんとにもう、揃いも揃って。
「案外脈有りだったりするかもね♪」
にやにやと笑い、ルーシィは静かに風呂場のドアを閉めたのだった。
「…結果的にグレイだったからいいけど…も、もしもレオだったらあたしどうしてたんだろうって考えたら…」
はらはらと涙を流すルーシィに、レオは胸の奥をきゅんと締め付けられた。ぽんぽん、と頭を撫で、ルーシィの顔をこちらに向けると、優しく唇を重ねる。
「あたし…レオがカレンからアリエスを護ったのもわかるけど…カレンの気持ちもなんとなくわかるっていうか…あんなに可愛かったら…ず、ずるいじゃない…だから…あたし…レオもあの子のこと好きだったりして…とか…色々考えちゃって…」
なんて可愛いんだろう―。
口元が緩むのを、いや、がらがらと理性が崩れていくのをとめられない。
「あたしが一番レオのこと、好きなのよ…だからあんた…離れたら絶対ゆるさないんだから…」
上目遣いにこの言葉。
レオの理性は完全にぷっつん。
「ルーシィ。僕もうだめだ。」
「え?」
「今日は絶対優しくしないから。」
「ちょ、レオ?!」
ギシッっとベッドが軋み、ルーシィの白い手がふわり、と後から落ちる。
彼女ほど愛しい存在などありえない。
レオはそのまま、ルーシィの白い肌に紅い印を刻み甘い果実を堪能していく。
白羊と親友の恋を密かに応援するのは、目の前のお姫様を可愛がってからにしよう。
(つまるところの、嫉妬ってやつ。)
白姫様のためいき
prev - next
back