「腹減った。」

深夜22時。
グレイは冷蔵庫を開けて空腹を満たすものを探したが、空っぽのそこに大きな溜息をついた。ナツとご飯を食べたのだが食べた時間が早かったことからこの時間になり空腹感が再来したのだ。グレイは財布と鍵を持って部屋を出るとふと、空を見上げた。

「おー、絶景だな。」

外に出ると空に浮かぶ美しい満月にグレイは目を丸くし、少しの間見とれた。あまり夜の空をちゃんと見たことがなかったが、誰かさんが夜の月と星が好きだと言っていたのを思い出しなるほどね、と頷く。空いっぱいに散りばめられた星達を、優しく夜を照らす月を好きだという理由も、そして何故彼女が星霊魔法を使うのかも、なんとなくわかる気がした。

「あら?グレイ!」
「…ルーシィ?」

そんなことを考えていると渦中の人物が透き通るような声で突然現れたのだから、グレイは鳩が豆鉄砲を食らった様な顔で金髪の少女を見つめた。と同時に、その彼女のあまりに無防備な格好に思わず咳き込む。

「どうしたの?こんな時間に。」
「いや、こっちの台詞だっつーの。ルーシィこそなにしてんだよ。」
「あたしはちょっと買い物に。ミルクが切れてたのすっかり忘れてて。ミルクが無いと嫌だって、うるさいヤツが一人居るから。」

にっこりと花のような笑顔を見せるルーシィが言っているのはおそらく彼女の恋人の獅子であろう。

そういえばあいつ、一日に一回は必ず牛乳飲んでたな。
さすがネコ科―というべきか。

グレイは相変わらずお熱いことで、といった視線をルーシィに向けるが、一瞬忘れていた彼女の格好に再び頭が痛くなった。こんな遅くにいくら近所とはいえほぼ下着姿でうろつく年頃の女性がいるだろうか。その姿は月明かりの効果もあってか、2歳年下とは思えない程大人な色香が漂っている。うっすら濡れた髪も、石鹸の香りも男を惑わすものでしかない。こうして出会ったのが自分だからいいものの、下手すればそこらへんの男に襲われたって文句は言えない。彼女の恋人は何も言わないのだろうか。

「で、グレイは何してるの?まさか散歩とか可愛いことじゃないでしょう?」
「俺は腹が減って…」
「ええ?!だってアンタ…ナツと一緒にご飯食べに行ったんじゃ…」
「た、食べ盛りなんだよ。いいだろ?」

グレイは少し頬を染めて顔をルーシィから背けた。ルーシィは溜息をつき、ごそごそと袋からパンを取り出すとグレイに差し出す。

「はい。少しはお腹の足しになるでしょ?」
「まじで?くれんの?」
「うん。」
「さんきゅ。じゃあお礼にあぶねーから送ってってやるよ。」

グレイは素直にそれを受け取ると早速袋をあけ、パンを頬張る。彼の好意に甘え、ありがとうと笑うと、ルーシィは何かを思い出したかのようにあっと声を上げた。

「そういえばさ、グレイってアリエスとはどうなの?」
「は?」
「もー、だから、付き合ったりとか。」

ごほっ!!!

「ちょっ…やだグレイ!汚ーい!」
「わり…っ…ごほっ、ごほっ…」

ああもう、何で女ってのはこうなんだ。惚れただなんだってすぐそっちに結び付けたがる。
んなこと正直どうだっていいし、仮に誰かと付き合ったりなんだりしたってわざわざ言うことでもない。

つーか、それよりもお前のその格好をもっと気にしてくれよ。

呆れた顔で溜息をつくグレイに気がつきもしないルーシィはわくわくと楽しそうにまだ話を続けていた。

「グレイはエルザのことが好きなのかと思ってたけど、よーくみてたら違ったみたいだし、ミラさんかな?って思った時期もあったけど違ったし。もしかしてナツ?って思ってた時もあったんだよね〜。」
「俺はノーマルだ。それだけは言っておく。」
「あはは、冗談だって!」

ころころと悪戯な笑みを見せるルーシィの大胆にあいた胸元が気になって仕方が無い。彼女の恋人のことを考えれば恐ろしくて、ムラムラくることは特段ないがそれでも自分だって男なのだ。自然と目が行ってしまうのは仕方ない。人の恋愛を気にする前にまず自分の格好をなんとかして欲しい―。エルザはもっぱら鎧で装甲しているし、ミラジェーンもそこまで大胆な服は着ない。自分の相棒であるジュビアもスタイルはいいが、控え目な格好しかしていない。というか、相棒のジュビアがルーシィのように大胆な格好をしていたら気になって仕事に集中できないのでかえって助かっていたりもするが。アリエスにいたっては確かに露出も高いがなんていうか…

(羊…としか思わないっつーか…いや、でもこの間は…)

「この間アリエスとデートしたって、レオから聞いたから♪どうなの?実際♪」
「は〜…つーかよ、お前そんな格好してロキはなんもいわねーの?」

顔を顰めてそうたずねると、ルーシィはきょとんとして小首を傾げてくる。

「え?何が?」
「…だからー!」

グレイはがしがしと頭をかいてルーシィの腕を掴み、顔をぐっと近づける。それは唇が触れるか触れないかの距離。

「他の男の前でそんな格好してていいわけ?っつってんの。」

そこまで言っても頭の上に??が浮かんでいるルーシィに、グレイは彼女の恋人にだけは死んでもなりたくない、いや、ロキがうらやましい部分も無くはないがそれでもやはり、なりたくない。と再び頭を悩ませるのだった。




グレイとルーシィの場合


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