「ぐす…ぐすっ…………」
はらはらと泣きながら2人の様子を眺めるのは、本当にたまたまその場に居合わせたアリエス。2人の会話が聞こえたわけではない。ただ、楽しそうに話す2人と、最後に自分の想い人が自分の契約者に近づいた姿を見てしまっただけ。会話を聞いてない為、疑っても仕方がない光景にアリエスは思わず泣き出してしまったのだった。
「グレイさんはやっぱりルーシィ様が好きなんですね…。」
どうして自分はもっと早くにグレイに出逢えなかったのだろう、ルーシィよりもずっと先に。どうして自分は星霊なのだろう。こんなに彼のことが好きなのに、星霊なんてなんて不運なのだろう。
「……ルーシィ様が羨ましい…」
そう呟き、その場から立ち去ろうとすると、ドンっと誰かにぶつかりアリエスは悲鳴と共にその場に転んでしまった。
「ああ、ごめ、んなさ…」
「…アリエス?」
よく知ったその声に、アリエスは涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げる。そこには、昔からのなじみある星霊―レオが立っていた。
「…レオぉ…」
「え、ちょ…どうしたの?誰かに何かされた?」
「レオ…私…私…っ…」
「わ!アリエス…」
アリエスは思わずレオにぎゅっと抱きついてしまい、そんな彼女を無碍に振り払うことも出来ずレオは困ったような笑みを浮かべた。
(うーん、ルーシィが居なくてよかった。)
ヤキモチ焼きのルーシィにこんな現場を見られてはご機嫌取りに大変な想いをしなくてはならない。レオはそう溜息をこぼし、優しくアリエスの頭をなでてやった。
「どうしたのアリエス?僕でよかったら話きくけど。」
「レオ…」
つまるところの話はこうだ。
アリエスなりに勇気を出して夜は遅いがグレイの元に、バルゴの師事による手作りのクッキーを渡しに行こうと思い、ルーシィには内緒で勝手に自分の魔力でこちらの世界にやって来た。しかし、その途中で自分の想い人であるグレイと契約者であるルーシィを目撃してしまった。
「そっか。」
「…ぐすっ…やっぱり…グレイさんはルーシィ様が好きなんだって…わかったの…」
レオははぁと溜息をつく。グレイがルーシィを好きだというのはありえないからだ。彼は自分とルーシィが付き合っていることを知っているし、人の女に報われない片思いをするほど馬鹿じゃない。大方ルーシィを少し脅しただけだろう。(脅しておかなければならないようなことをルーシィがしたんだきっと。)
「…わかる…のよ…」
グレイがルーシィに魅かれる理由はわかる。
気が強いけれど優しくて
守ってあげたくなるような人。
温かい心を持った人。
自分達星霊を『トモダチ』だと言ってくれる人。
容姿をとっても性格をとっても、自分は彼女にはかないそうもない。
「僕はグレイがルーシィのことを好きだとは到底思わないけど。」
「…え?」
「グレイはむしろ…」
そう、グレイはむしろアリエスのことを好きだと思う。好き…とまで気持ちが行っていなくても、確実に気になってはいると思う。2人で仕事に行くときもあるが、一回は必ずと言っていいほどアリエスの話が出るし、自分とアリエスの昔の関係を聞いてきたりしたこともあったのだからグレイもアリエスのことを意識しているのは確実だ。しかしこればかりは2人の問題な為レオは口をつぐむ。
「まあ、心配することないからそれ、グレイに渡しに行ったらいいんじゃない?」
優しく笑い、レオはアリエスが抱き締めている袋を指差した。レオが指す方向に目を向けると、一生懸命つくりラッピングしたプレゼント。アリエスは頬を染めて俯く。
「こ、これは、その…」
「大丈夫だよ。アリエスは可愛いし、スタイルもいいし。もっと自信持って♪」
キラっと爽やかに笑みを見せて、レオはアリエスの肩を軽く叩いて背を向けた。残されたアリエスはレオの背中を見つめてぼそっと呟く。
「…///そういう台詞簡単に言えちゃうからルーシィ様が怒るのよ…///」
昔から彼を知っているが、彼はだいぶ変わった。硬派な印象しかなかったレオ。自分が知っているレオは女の子に可愛い、なんて簡単に言ったりしなかった。彼を変える引き金を引いたのはきっと自分―複雑な心境のまま、アリエスはせっかく作ったものを渡さないまま帰るのもバルゴに申し訳ないと思い、再び勇気を出してグレイの家へと向かうことにしたのだった。
レオとアリエスの場合
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