「はー。」
「あらあら、また今日は大きな溜め息ね。」
「ちょっと、辛気くささが移るからやめてくれないかしら?」
「溜め息が多いなルーシィは。」

ミラジェーンとエバーグリーン、エルフマンが「ミラジェーン特製トロピカルサワースペシャル」を飲みながら物思いにふけるルーシィに各々声をかけるという珍しい取り合わせ。僅かに三人の方へ視線をずらしたルーシィだがそれはすぐにまた明後日の方向へ戻される。

「ご機嫌斜めな理由はやっぱり彼かしら?」
「別に、あんな奴関係ないですよ。」
「あんな奴ってどんな奴?」
「人の魔力使って、女を口説くような人の屑みたいな奴。」
「人って、星霊だよルーシィ。まあ一応人型の星霊だけど。」
「あ、そうだったわ。」
「それにしても屑だなんてひどい言い草だなあ、傷ついちゃうよ僕。」
「傷つけばいいのよ、痛い目みれば…って、」

何気なく返していた会話だったが、振り返ればそこにはへにょん、と微笑んだルーシィの頭を悩ませている渦中の人物がいた。少しだけ目を丸くしてロキ、と名を呼べばどこかホッとしたような顔になる彼にまた腹が立つ。そんなルーシィの心情など知ってか知らずか、ロキはルーシィを腕の中におさめた。

「やっぱりギルドに戻ってたんだ。探したよルーシィ。」

オレンジ色の髪にサングラスをかけた青年は柔らかい、彼だけの香りがする。それだけで今もやもやしていた感情が静まっていくのが悔しくて、唇を噛み締めながら離してよ、と胸板を押しやるが力で適うはずがなく彼女を抱き締める腕により一層力が込められた。

「いきなりいなくなるからおかげで寿命が縮まる想いしたんだけど?」
「…!!」

サングラスの下の切れ長な目がルーシィをじっと見つめている。それは、猛獣が獲物を狩りにいくときの視線、絶対に逃がさないという臨場感すらあり、ルーシィはいきなり星霊から一人の男に切り替わったロキに頬を染めた。

「それで、お怒りの理由をお聞かせ願えませんか、姫?」
「…………だから姫ってやめてよ。」
「じゃあ女王様だ。」

それもなんか違う気がする。

そう思いつつも、いつものように優しく自分を見つめて言葉を待つ彼にまた負けたと言いたいような溜め息をこぼし、ルーシィはじっとロキを見上げた。

「あんたが…」
「うん?」
「あんたが人の魔力でせっかく喚んでやってるのに女ばっか口説いてるからでしょーが。」

ルーシィの頬が膨れる。
その可愛い気ない口調と裏腹に、顔にはしっかりと、わたしヤキモチ妬いてますと書かれている。
全く本当にわかりやすい。口から出る言葉はどこも素直じゃないが、顔にはしっかりと、相手に本当の気持ちを伝えるだけの素直さを持っているこの少女に、いつもいつも心臓が摘まれるような想いになる。

ああもうだめだよルーシィ、可愛すぎるよ、うー、この気持ちを誰かに言いたい!
とうずうずしてれば、なんとか言いなさいよ、と足を踏まれた。あろうことか今日彼女は7pのピンヒールを履いている。

(こういう時に時々思うんだけど、僕はルーシィに本当に愛されてるんだろうか。たまに疑いたくなる。)

「…ひどいルーシィ。」
「あんたがさっさと応えないからでしょ。」
「…うう、僕は毎日いつだってどんなときもルーシィに優しくしてるのに。」
「はいはい、女にはみーんなに同じでしょ、あんたが優しいっていうのは。」

よよよ、と嘘泣きをかますロキを白い目で見つめながらそう突き返したルーシィは、途端にぴくりと肩を揺らして固まった彼に、きょとんとした。

「………同じに見えた?」
「え?」
「女の子への態度、ルーシィは自分への態度と同じだと思った?」
「ええ、思ったわよ。」
「…そう思われてたなら仕方無いけど…でも同じに見えたんだ。そっか…。」

明らかに落ち込むロキに内心戸惑いながらもやはり今日はなかなか彼に優しく言葉をかけることができない。
ルーシィは形の良い眉毛を寄せる。

「べつにあんたが誰といちゃこいてようが、あたしにはなんにも関係ないけど。」
「…関係ない?」
「あんたなんかいつか女に刺されてしまえばいいのよ。そしたら、ああルーシィ君の言う通りだった、って死ぬ間際に気がつくわ。」

辛辣な言葉とその可愛らしい容姿がまるで合っていない。次から次へと出てくる彼への非難の言葉は止まることを知らず、そばにいるエルフマンもエバーグリーンも、さすがにはらはらし始めた。ロキの顎を人差し指でくいと上げ、ルーシィはにっこりと満面の笑みで、唇が触れるか触れないかの距離で囁く。

「あたしは、あたしだけに優しくしてくれる人を探すからあんたはみんなに優しくしてれば、どうぞ、ご・勝・手・に。」

言ってやった、ついに言ってやった、打ち負かしてやったわ、と得意気に席を立つ。化粧直しでもしてナンパでもされに行こうかしらとトイレのドアを開けようとしたとき、そのドアが勢い良く閉められた。ふと視線を上げると誰かの手がドアを閉めている。本能が危険を察知し、その腕と反対の方へ逃げようとするとそちらからも腕が伸びてきて逃げられない状況に陥った。

「いくら怒ってるからとはいえ、あれは随分とふざけた冗談だね、ルーシィ?」

あれ、とは先程捨て台詞のように吐いたあの発言のことだろう。彼らしからぬ低い声が耳元で聞こえ、ルーシィの体がぴくりと震える。その妙に艶のある声に体が火照っていくのを感じ振り返ることもできないでいる彼女の白い肩から二の腕にかけて、ロキが指を滑らせればじん、と熱くなるなにか。そんなルーシィに気がついた彼はその手で後ろから彼女の顔に触れた。

「…冗談じゃ、ないって言ったら?」

震えた声ー期待と不安が入り混じったような声色に満足そうに口元に弧を描き、ルーシィの顔を無理矢理自分の方へ向かせたロキの、サングラスの奥にある瞳が怪しく光る。視線を反らすことは許されない。射抜かれるその視線にすら疼きを感じ頬を染め上げたルーシィの胸が驚く程高鳴っていた。

「…二度とそんなこと言えなくなるよう、もう一度しっかり調教しておかないとだめってことか。」
「……!」
「…今夜10時に君の部屋にいくよ。」
「な、なに勝手に決めて、」
「ルーシィは他の子達と違うって、体にたっぷり刻みつけてあげる。」

くすくす笑うと頭の中に描かれたのだろう。上目遣いでロキを見上げるルーシィの瞳が情事の際に見せるそれに変わっている。
そのまま桜色のぷっくりした唇を奪い取りたい衝動に駆られたロキだが、場所は弁えなければと名残惜しく髪の毛よりも濃い金色の睫で縁取られた瞼にキスを落とした。
てっきりキスをされると思っていたのに。
煽るだけ煽られ生殺しされた不満と、なにかを期待していた自分への恥ずかしさとの両方よりロキなんか嫌い、と真っ赤な顔をスーツに埋めたルーシィがこの上なく愛おしくて、やっぱり夜まで待てないかも、と考えながら細い肩を抱き寄せニコニコと嫌な笑みを浮かべるロキに、彼女は気がつかなかった。


少女は嫉妬の花を飾る


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