「リオン、今日は仕事に行かないのか。」
「はい。今日はシェリーが風邪引いたらしいんで。」

蛇姫の鱗で1、2を争うリオンが仕事に行く様子を見せずにのんびりとしているのを不思議に思いそう問いかけたのだが返ってきた反応は意外にもシェリーの話だったのでジュラは少し驚いた。普段からパートナーとしてリオンとシェリーがいつも一緒に居るのはこの蛇姫の鱗では有名過ぎる程有名だが、どちらかと言えばシェリーがリオンを慕ってのことだとばかり思っていたのだ。

「シェリーが居なくとも、お前一人でなんてことはないだろう?」
「そうなんですが、…なんつーか、シェリーが居ないと今一なんですよ。」

何が―と具体的にはわからない。ジュラの言う通り自分一人で仕事に行っても問題はない。よほどのことがない限りはリオンの実力があればほとんどの仕事はこなせるだろう。それでも何故か、仕事に行く気がしなかった。

「今日はゆっくりしようと思います。シェリーの様子も気になりますし。」
「…そうか。見舞いに行ったら喜ぶだろうな。二人共今日はゆっくり休め。」

物心がつく頃に父親は居なかったリオンにとってジュラは正にそれに値する存在だった。実際にはまだ27歳という若さではあるがジュラも自分とシェリー、他の若いメンバーを我が子のように可愛がっているのをリオンは知っている。やんわりと笑みを見せ一礼した後、シェリーの家へと向かうリオンを見送りながら、「初めて気付く、か。」と一人呟いた。













「ゲホっ…うぅ…ついてないですわ…」

頬を赤く蒸気させた、弱々しい少女が丸くなりベッドに横たわっていた。

「まさか…風邪をひいてしまうなんて……」

シェリーは恨めしげに窓の方に目を向ける。外は雨が降っていて、昼間だというのに薄暗くあまり気分のいいものではなかった。風邪をひいている時はただでさえ一人だと思い知らされるのだが、こんな天気では世界中に一人ぽっちなのではないか―そんな考えさえ浮かんでくる。

「……リオン様…どうしてるかしら…」

彼のことだ、私が居なくても仕事に行っているんだろう。そもそもギルド内でも女性人気が圧倒的に高い彼なのだから、きっと自分の居ない隙を狙って他の女性達が仕事に誘っているはず。シェリーはそう思えば思う程どんどん悲しくなってきた。結局自分は一人なんだと、風邪で弱っている効果もありじんわり涙が浮かんでくる。

「……リオン様……」

消えそうな声でそう呟いた時、部屋のベルが鳴る。シェリーはのそっと起き上がり、涙を擦りながらふらふらとドアに向かって歩き出した。

「…はい…」
「リオンだ。」
「!!リオン様?!!」

まさか来客がリオンだとは思って居なかったシェリーは慌ててロックを解除しドアを開けた。

「…すごい格好だな。」
「え…?」

リオンの言葉にシェリーは自分の姿を姿見で確認すると、赤い顔を更に赤くした。ボサボサ髪にノーメイク、シャツははだけていて少し胸元が見える状態。まさか大好きな人にこんな姿を見せてしまうなんて…思わずごめんなさいと謝ると、反動で足元がふらつきそのままリオンの胸に倒れこんでしまう。

「と…すごい熱じゃないか。」
「ご、ごめんなさい……え…ひゃあ…!」

ふわっとシェリーを抱き上げ、リオンは部屋をキョロキョロと見回す。シェリーは顔を真っ赤にしてリオンを見上げた。

「リオン様…///あの…///」
「ベッドはどこだ?悪かったな、玄関まで来させて…こんなに熱があるなんて思わなかった。」
「いえ……///あ、あちら、です…」

シェリーが指を指すと、リオンは靴を脱ぎ部屋に入っていく。僅かな間ではあるが、あまりにも嬉しすぎる展開にシェリーはいっそこのまま熱で死んでもいいと一瞬だが思った。リオンはそのまま彼女をベッドに下ろし、傍にあったタオルを濡らしてから、シェリーの額にぺちっと乗せる。

「薬は飲んだのか?」
「…いえ、まだ……あの、リオン様…どうして…」
「様子を見に来たんだ。一人じゃろくに飯も食えてないんじゃないかと思ってな。」
「………///」

嬉しい―シェリーは先程までの孤独感が吹き飛び素直にそう感じた。リオンの大きくて形の良い手がシェリーの頬に触れる。

「ゲホっ…私…今日風邪をひいて…外は雨だし…一人ぼっちになってしまったんじゃないかって思っていました…一人を感じるのが怖いから…だから風邪を…ひかないように気を付けてましたのに…」
「……」
「でも、今は風邪ひいて良かった、なんて…こうしてリオン様が来てくださいまし……………」

気が付けば柔らかな感触を唇に感じ、シェリーの言葉はリオンによって遮られていた。そっと顔を離したリオンは僅かに頬を染めている。何が起きたか一瞬わからず、シェリーはぽかんと口を開けた。

「…早く治せ。お前が居ないと調子が出ない。」
「……………え………」
「とりあえず粥でも作ってやるから寝ろ。」
「……あの…リオン…様…」

熱が上がってきたのだろうか。頭がぼーっとし、思考が回らなくなってきたシェリーはとっさに起き上がった体をまたベッドに戻しリオンを見つめる。リオンはとろんとした瞳の彼女の頭に手を置いて、ふっと笑みを浮かべる。

「続きは風邪が治ったら、な。」

言い終わるや否や、あどけない寝顔で眠りにつく少女がリオンの瞳には映っていた。


(傍に居すぎて気付かなかっただけで、君が居ないと駄目なのは俺の方。)





必需品はキミ


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