ガルナ島での一件がおわり、エルザも釈放されてようやく落ち着ける時間が戻ってきた、久々に休息の時。ナツ達と夕食を食べに行く約束をしていたグレイだったが、何故かそんな気にはなれず、促されても「あとで行く。」と適当な返事をし、ぼんやりと一人河原を歩いていた。
ウルは生きていた、氷の中でずっと闇から自分を守っていた―それがわかった今、迷うことも戸惑うこともないのだが、グレイの心は晴れないまま。
そのまま腰を下ろして煙草に火をつける。

「……闇から守る、か…」

目の前で大切な人が居なくなるというのは思ったよりも痛みが大きいことだった。自分はこれで2度、大切な人を亡くしている。一度目は復讐を誓い、力が欲しいと願った。あの化け物を葬り去るだけの力を欲した。あれだけ復讐したかったのに、いざデリオラに挑むも手も足も出ず、悪夢の終わりと同時に今度は母だと思っていた大切な人を犠牲にした。

やりきれない気持ちになり、グレイの頬に涙が一筋伝う。

「…くそっ…」

俺は結局誰も、何も守れない。
いつも誰かに助けられて、守られて。
どうして俺はいつも…

「…だせーな、俺………」

泣きたくなんてない―そう思えば思うほどに悲しくなり、グレイがその場で声を上げて泣き始めた時。

「…グレイ。」

透き通った声に後ろを振り返れば、そこにはじっと自分を見つめる金髪の少女が居た。おそらくは手遅れだろうが、グレイは涙を腕で拭って、イラっとしながら「なんだよ。」と応える。

「あたし、ここに居てもいい?」
「……は?」

なんで―グレイが口を開く前に背中に温かい感触がなだれこんだが気にせずに顔を水辺に戻し、何も話さないルーシィに胸をほっと撫で下ろした。
暫く双方無言が続き、時が少し流れた頃。ルーシィがポツリと口を開いた。

「あたし、一人って嫌い。」
「あ?」
「小さな頃、ずっと一人だったの。ママがいたけど、死んじゃったから。」
「けどお前―」

父親いるだろ―そう言い掛けてグレイは口をつぐむ。以前、少しだけナツ経由でルーシィの話を聞いたことがある。夜、いつものように彼女の部屋に忍び込んだナツが、普段絶対に見せないルーシィの涙を見た、と。その時に父親のことを軽く話してもらったらしいが、ルーシィの孤独はそこに存在する人物に甘えることもすがることも許されない孤独―ナツの話を聞いた限りでぼんやりとそんなことを考えたことを思い出した。

「だけどね。私一人だったけど…きっと、あの家がなかったら生きていけなかった。」
「…だろうな。小さかったんだろ?」
「うん…。だから早く大人になりたかった。あの家を出て、ハートフィリアに関係なく暮らしたかった。自分が、一人でやっていけるって、あの人に見せたかったの。」
「………。」
「もちろん、死んじゃったママにもね。」

ルーシィは寂しそうに笑うと、すっとグレイの頭に手を伸ばした。グレイはそんなルーシィを目を丸くして見つめるが、彼女はただ微笑むだけ。

「無理、しなくていいんだよ。」
「!!」
「…私、グレイの味方だから。」

ルーシィの、押し付けがましくないさりげない優しさにグレイの瞳から止まっていた涙が溢れだす。ルーシィがいるのに―そう思うも止まらない。泣いているグレイを優しく見つめてルーシィは細い腕で抱き締めた。

「―大丈夫、大丈夫よ。」

暖かい、人の温もり。ウルにもよくこうしてもらったっけ。と、グレイは泣きながら昔を思い出す。二歳年下のこの少女に今感じているのは間違いなく母性というものだろう。女性の方が強く暖かいとはよく言うが、まさか年下のルーシィに母性を感じるとは露にも思っていなかった。暫くすると涙を拭い、グレイは僅かに頬を染めて目を泳がせる。

「……わ、悪ィ///」
「んーん、少しはすっきりした?」

にこっと笑うルーシィにグレイはますます顔を紅くする。男が声をあげてなくなんてなんてみっともないんだと恥ずかしくてたまらない。すると、ルーシィが立ち上がり手を差し伸べてきた。

「もう夕暮れだし、ご飯の支度しようよグレイ。」
「…へ?」
「こういう時は一人より二人、でしょ?」

片目を瞑り目配せしているルーシィにふっと笑うと差し出された手を掴みグレイは立ち上がった。

「じゃあ俺がうまいもん作ってやるよ。」
「あら、グレイ料理できるの?」
「おお、任せとけ。」
「じゃあパスタ食べたいな、トマトクリームの。」
「うっし、材料買わねえとなっ。」

楽しげに並んで歩きだす二人の影が堤防に揺れる。家族はいないが本当の家族のように暖かい仲間が自分にはいる―願わくは、兄もそうであって欲しいと、グレイは静かに祈った。

雨が止んだ気がした。





篠突く雨に寄る辺なく


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