ギルド中心のテーブルで彼女にしては珍しく一人で本を読む空色の髪の少女はちらり、と、角に座ってばくばくと鉄やら螺旋やらを食べている黒髪の滅竜魔道士に視線を向けた。目が合うことはなく、彼が見ている先を追うとそこには楽しげにグレイと笑っているルーシィがいる。ちくり、と胸が痛むのを感じて少女はいたたまれなくなり視線を本に戻す。彼のことを気になり出したのはいつからだろうか。最初は半殺しにあい彼の存在が怖くて仕方なかったが、ジェットやドロイからの仕返しを黙って受けた彼を見た時、何故だか胸が苦しかった。極め付けはラクサスから守ってくれたあの時。身体をはって自分を守ってくれたあの瞬間、もう恋は始まっていたような気がする。ジェットやドロイに対して抱く、仲間というだけの気持ちではなく紛れもなく恋と呼べる気持ち―だが相手は手強い。S級クエストをこなせる程の実力の持ち主である彼が、魔力の強くない半端な位置の自分に興味を抱いてくれるとは、どうしても思えなかった。それにきっと彼は、ルーシィが好きだ。見ているだけでわかってしまう。ルーシィは明るくて可愛くてスタイルもいい。女の子として申し分のない、全てを持って生まれてきたと、彼女は思う。それでもなんの飾り気なく男の中に混じって身体をはっているルーシィは見ていても健気だし男サイドからすれば守ってやりたくもなる存在だろう。

「レービーィ?本、置いたら?。」
「え―?」

顔をあげるといつの間にかミラジェーンが立っていて、ニコッと笑いレビィのテーブルにドリンクを置いた。ぼーっとしていたのを見られたかな、とレビィは頬を染める。

「ギルドで考え事なんて、レビィにしては珍しいわね。」
「そ、そぉかな。」
「ルーシィが溜息をつくのは毎日だけど、レビィはいつもにこにこしてるイメージだから。」
「そ、おかな―…」
「そぉよ、どうかした?」
「…ミラ…あたしね。」

口を開きかけたとき、ふと視線を感じてレビィはキョロキョロと辺りを見渡す。すると端にいるガジルと視線が絡まり、思わず目をそらしてしまった。どうしたの?と尋ねてくるミラジェーンになんでもないよと返すと、最近あんまり眠れないから眠たかっただけ、と適当に流してありがとう、とドリンクを持ってレビィは外へ出る。

「はぁ…」
「おい。」
「うん、良くないクセなのはわかってるよでもだって、まともに見れるわけないじゃない、ルーちゃんに適うわけなくてですね。」
「おい。」
「わかってるわかってるから…!!!って、ひえっガジル…!!!きゃあ!」

ぶつぶつ呟きながら歩いていたレビィだったが、振り向いてみるとまさに意中の本人であるガジルがいたので驚きすぎて転んでしまった。恥ずかしくて死にたくなり、顔を真っ赤にしているとガジルがギヒッと笑う。

「ちぃせえ奴はガキと一緒ですぐ転ぶのな。」
「…ち、ちぃせえって、失礼ね///」

むくれてガジルに言い返すとレビィは、よっと立ち上がり砂をほろう。

「どうしたの、ガジル。仕事?」
「いや、あー。」
「?」

喋らなくなったガジルにレビィは首を傾げた。彼は基本的に無口だ。ナツやグレイと喧嘩(じゃれあい)しているときはぎゃーぎゃーと喋っているが、普段はあまり喋らない。よく喋る相手はジュビアだと思う。同じギルド出身だし仕事もよく一緒にこなしている。だから今こうしてガジルと二人で話すというのは滅多にあることではない。

「あ、そっか。ガジルもこの本読みたいのだね?」
「は?」
「うんうん、わかるよ、だってこの本、今話題No.1の本だもんね、えへへ。どこ行っても売り切れで探すの大変だったんだあ。ジェットとドロイにも手伝ってもらってね、やっと見つけたの。でもまだダメよ、だって私まだ途中なんだもん。読みおわったら貸してあげるね。」
「…そんなくだらねーもんに興味ねえ。」
「お、くだらないとは心外ね。本は色々な知識を与えてくれるから勉強になるのですよ。まあこれは恋愛物だから勉強には…あ、でも恋愛の勉強にはなるかな。こんな告白されたいなあとかこんなこと言ってもらえたらなあとか、夢が広がるわ。あのね、男の子が女の子に赤い薔薇の花束を贈るところがあってね、なんで自分にくれたのか女の子が聞くの。そしたら彼、こう言うのよ。赤い薔薇の花言葉を知っているか?って。赤い薔薇の花言葉ってね、あなたを愛しますって意味なの。そこから二人の関係は一歩前進するのですよ。うーん、こんなこと言われてみたいな。」

そこまで話してレビィは我にかえって冷や汗を感じた。いくら緊張してるからって本の話題で一人で喋りすぎた、と後悔する。本を読まない彼にしてみたら今の自分の話していることなどなんとつまらないことだっただろうか。

「あ、ごめんね。本のことになるとついつい白熱しちゃって。え、っと…」
「お前…」
「花もらったら嬉しいか。」
「うん、そりゃあ。」
「お前。」
「え?」
「あいつら二人のこと好きか。」
「え??あいつらって、ジェットとドロイ?そ、そりゃあもちろん、チームだし。」
「ふーん、あっそ。」
「そ、それがどうかしたの?」
「なんでもねえよ。」

そう言ってギルドに戻って行ってしまったガジルの背中を見つめ、レビィはますます頭を抱えた。



翌日、レビィはカウンターに座ってミラジェーンに昨日のガジルの話をしながらうーんと唸っていた。

「なにが言いたかったかわかんないなー。」
「あら、そうかしら。」
「え?」
「私はわかるけど。ガジルの気持ち。」
「えー、なあに、教えてよミラ…」

くすくす笑うミラジェーンに詰め寄った時、ばさっと、真っ赤な薔薇がカウンターに置かれ、レビィは目を丸くする。あら、とミラジェーンがレビィの後ろを見て含み笑いしたので思わず振り返ると、そこにはガジルがむすっとした顔でつったっている。

「どうしたのガジル、これ、くれるの?」
「ああ。」
「わあっ…ありがとう!!すっごく嬉しいよ!!え、でもどうして私に…?」
「花言葉、知ってんだろ。」
「え…?」

この演出はなんとなくどこかで聞いたような知ってるような演出だ。レビィはあっという顔を浮かばせガジルを見つめる。彼はもうすたすたと歩いていってしまっていてレビィの方を見てはいなかったが、嬉しくてにこにこ微笑んで花束を手に持った。つまり期待してもいいのだろうか。本当に、彼と話すのはある意味ゲームみたいだ。



(明日はあたしがあなたに言葉拾いをさせる番。)




あなたが落としてゆく言葉を拾ってゆくゲーム


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