「ルーシィ、悪かったって…こんなに謝ってんだから許してくれよ、な?」
「いや、絶対に許さない!帰ってよ!!」
「なー……結構寒いんだぜ外。入れてくれよ、それがだめなら許してくれ。許してくれるまで帰らねえからな。」
「氷の魔導士なんだから寒いのなんか平気でしょ!!」
「…ルーシィー……」

グレイはがくっとうなだれ、背中を扉につけてしゃがみこんだ。もう九時を回るとはいえ人の波はちらほらとあり、近隣の住人達は皆、グレイを不審な目で見つめながら暖かな部屋へと入っていく。深い漆黒の夜空を見上げながら、その空と同じような髪色の少年は再び大きなため息をついた。


―二時間程前のことだ。


いつものようにフェアリーテイルで酒をかわしあっていた。と言ってもルーシィが手にしていたのは甘いクランベリージュース。

「ルーシィもお酒飲めばいいのに。」
「うーん、明日朝からジュビアと仕事だし、お酒あんまり好きじゃないんです…苦いし。」
「でもこれとか甘くて美味しいんじゃないかしら。」

そう言ってミラジェーンが差し出したのはライチをベースにしたカクテル。ルーシィは一口喉をならすと眉間に皺を寄せた。

「う〜………美味しいけど……お酒の味。」
「なんだぁ、相変わらず弱ぇなルーシィは。」
「しょーがねぇよナツ。ルーシィはガキだからな。ガキはガキらしくジュースでも飲んでないと。」
「なによぉ!!」
「あー、こらこら、お酒は人によって好き嫌いがあったりペースも違うんだから、気にすることないよルーシィ。ナツもグレイも、飲めない人に強要したりからかうもんじゃない、ルーシィは女の子なんだしね。」
「へーい。」
「ふーんだ、フリードやっさしー!誰かさんと違って!!」

べーっと舌を出し、ルーシィはフリードの影にさっと隠れてグレイをジト目で見つめる。そんな彼女の頭を撫で、フリードは優しい声色で「もう遅いし家に帰って休んだほうがいいよ。」と声をかけた。

「んー……でも…」
「そぉよルーシィ?お酒が飲めないんじゃ、このまま居てもまた被害こうむるだけだし…結局正常な人が大変なのよねぇ。」
「って、ミラもそろそろやめたほうが…」
「なぁにフリード!私がお酒飲むのは駄目だって言うの?」
「いや、そんなこと言ってないけど…」

既に酔っ払っているミラジェーンを心配してフリードは彼女の肩を抱きながら、酒瓶を取り上げようとするが当の本人は全く帰る気はないらしく、まだ飲むぞと言わんばかりの勢いで立ち上がりリキュールやらなにやらを混合し始めた。そんな、なんだかんだと仲むつまじい二人を余所に、ハッピーが小さく欠伸をしたルーシィに気が付き腕に抱き付いた。

「ルーシィ、眠たそう、あい。」
「ん…」
「ほら、ガキは帰って寝とけよ。」

グレイの長い指が柔らかい金髪をくしゃくしゃと撫で回すと、ルーシィは頬を赤くしてむくれながら頭をおさえた。

「なによ、大して歳なんか変わらないじゃない!」
「そうだけどよ。ほら、早く帰る支度しろ、送ってってやるから。」
「え…///」

グレイの言葉にルーシィはドキっとした。今までも一緒に帰ったことはあったし送ってもらったこともあったが全てナツやハッピーが一緒だったため2人で帰ることは実は初めてである。しかし、そう簡単にはいかないらしく、ルーシィの肩がぐっとナツに引き寄せられ、熱い体温が肌に伝わってきた。

「ずりーぞグレイ!!そのままルーシィの家で寝る気だろ!俺が送っていく!」
「あ、あんたじゃないんだからグレイはそんなことしないわよ!!///てゆーか、寝るのはあんたでしょーが!」
「ああ…おいナツ、ルーシィ離せよ。お前じゃねーんだからんなことしねぇよ。あ、でもおやすみのちゅーぐらいはしてやんねーとな。」
「な…っ…///」

ナツの腕に収まっているルーシィの腕をぐいっと引っ張ると、酔っ払っている火竜の腕からはすぐにルーシィが解放された。思ったよりすんなり解放されたことと、引かれた力が強かったのかバランスを崩したルーシィに、酔っ払った勢いで額にキスをするつもりが重なった唇は彼女のそれ。

「―――///!!!!!」
「………あ…」
『あーーーーーーーー!!!!!』

ガタガタと席を立つ一同と時間が止まったかのように顔を真っ赤にして動かないグレイとルーシィ。しばらくの沈黙の末、先に口を開いたのはグレイだった。

「あー………わ、わりぃ。」
「ル、ルーシィ!今のは事故よ!故意じゃないわ!!」
「そうだな…事故だから気にすることない!」
「グレイ!!!俺のルーシィに…!!」
「グレイがルーシィにキスしたぁあああああ!!!」
「つーか、その…も、もしかして初めてだったか…?て、んなわけないかな?ははっ…」
「ちょっと!!初めてに決まってるでしょう!!なに言って……!!」

必死でなだめるミラジェーンとフリードだったが、ポロっとルーシィの瞳からは涙が一筋伝う。

「……うぅ〜……///」
「ル、ルーシィ…」
「…ばかぁ!!!」

どんっとグレイの胸を突き飛ばし、泣きながらルーシィはギルドを出て行ってしまった。たじろぐグレイの背後には酒瓶を手にもち仁王立ちするミラジェーンの姿。その姿に、今にもテイクオーバーしそうなほどの殺気と魔力を感じ、フリードとナツ、ハッピーはひぃっと震えあがった。

「グレイ…あなたって人は…!!!」
「お、落ち着けミラちゃん…俺は…」
「いい?!わかってるでしょうね…ルーシィの機嫌が直って許してもらえるまで…絶対にギルドや自宅に帰るんじゃないわよ!!!!もしも帰ったら……あなたに待ってるのは……死よ!!」
「は、はい…!!」

にこっと笑っては居るが背後の殺気にグレイは、フリードの「今はそっとしといたほうがいいんじゃ…」という声を聞くこともなく、一目散にルーシィの後を追ってギルドを出て行った。





―どれくらいの時間がたったのだろうか。



っくしゅん!!


外でくしゃみが聞こえ、ルーシィはソファでクッションを抱えながらちらりと玄関のドアの方を見やった。

「…………まだ居るの?」

立ち上がり、カーテンの隙間からそっと外を見るとそこにはしゃがみこんだグレイの姿。(しかもいつの間に脱いだのか上半身はいつものごとく裸。)

「……ばか…」

きぃっと玄関の扉を開かれる音がすると、グレイはルーシィに気がついて立ち上がった。まだ機嫌は直っていないらしい表情だが、どうやらようやく話をしてくれる気になったらしい彼女にグレイはホッと胸をなでおろす。

「……悪かったよ。」
「…あんなキス…酷いよ、初めてなのに…。」
「…ごめん。」

俯き加減にポツリとつぶやかれたその言葉に、グレイはそのままルーシィの身体を抱きしめたくなったが途中まで伸ばした腕は力なく下げられた。と同時に、ルーシィの大きな瞳がじっとグレイを見つめる。

「さっきみたいのじゃないキスがいい。」
「……は?」
「///だから!さっきみたいなキスじゃなくて……その…もっと違うのなら、いいわよって言ってるの!」
「へ………マ、マジ?///」
「………グレイならいいわよ///…………ほっぺかおでこなら、だけど。」

顔を真っ赤にするルーシィがあまりにも可愛くてグレイは口元が緩むのを抑えられなかったが、いっぱいいっぱいのルーシィがその様子に気がつくことは無い。グレイはそのままルーシィを抱き寄せ、小さく頬にキスを落とした。

「おやすみ。」

そう言って静かに離れ、グレイはルーシィに背を向けて月明かりの道を、ギルドの方角に戻っていった。残されたルーシィは先程よりも顔を赤く染め、グレイの唇の感触が残る頬をおさえる。

「…おやすみなさい、グレイ…///」

ルーシィはそのまま部屋に入り、たまにはお酒も良いのかもしれない、と思いながら眠りについた。


(少しだけ近付けた気がして、今夜は幸せな夢を見られそう)


翌日、一連の出来事を全く覚えて居なかった最低なグレイにルーシィがぶちギレるのはお約束、だった。






おやすみのキスをちょうだい


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