問題児揃いの妖精の尻尾は今日も静かにするという言葉を知らない。毎日のようにこぜりあうナツとグレイに風紀委員のように小うるさいエルザ、可哀相に、そんな3人にこれまた毎日のように巻き込まれているルーシィの隣には彼女を離さない星霊レオ。そんな彼等を筆頭に、今日も妖精の尻尾は平和といえば平和だった。そんな彼等をカウンターの隅から見つめながら一人コーヒーを飲んでいる男にミラジェーンがニコニコしながら声を掛けた。

「フリードぉ、そんな隅っこに居ないでこっち来たらいいじゃない。」
「ミラジェーン…いや、僕は…」

突然声を掛けられて戸惑うフリードにミラジェーンは困ったように笑みを浮かべた。

「まだ気にしてるの?」
「…いや…。」
「嘘。だってあの日からフリード、ずっと哀しそうな目してるじゃない。」

見抜かれていた―フリードはギョッとした。収穫祭から、なるべく皆と関わらないようにしてきたつもりだった、特に涙を見られた彼女とは。まさか、彼女がこんなに自分のことを気に掛けていたなんて―。

「…君には関係ない。」
「うーん、確かに関係ないけど、やっぱ気になるじゃない?」
「気にしなくていいよ。僕は僕で色々と思うところがある。それを君に話すつもりはない。」
「話してくれなんて言ってないし、言うつもりもないわ。ただ私…」
「そういうのが嫌なんだ、同情ならやめてくれ。」

心配して、気遣ってくるミラジェーンにフリード苛立ちを隠せず冷たくあしらえば、ミラジェーンの瞳が淋と揺れる。本当はこんなことを言うつもりはなかったのだが本心を悟られたくなくて思ってもいないことを口にしてしまった。チラリと視線をミラジェーンに向けると淋しげに微笑んでいた。

「…ごめんミラジェーン。」
「ううん、私こそ…」
「いや…君は悪くない。今日はこれで失礼するよ。」

席を立ちギルドから出ていくフリードをミラジェーンは放っておくことができずにカウンターをビスカに任せて追いかけた。ずっと、ずっと好きだった人。だから気付いた、止めたかった。だがそれは間違いだったのだろうか。本当は彼ではなく、ラクサスをあんな形じゃなく止められれば良かったのだろうか。

「フリード、待って…!」

ミラジェーンの声に振り返るフリードはやはり哀しそうな目をしている。あの収穫祭から、ずっとどこかで危惧していたことがある。そこに踏み込みたくなくて表面的にフリードを心配していたミラジェーンだがそんなものは意味がなかったのだ。

「…出て行こうなんて、考えないでね?」
「……!」

フリードの目が、なんでわかったんだと言わんばかりに大きく開かれる。ああ、やっぱり―ミラジェーンはフリードの手を掴んだ。

「ラクサスのことは…私だって…あんな形で彼が居なくなってしまったこと…ううん、私だけじゃない、本当は皆だってひっかかってるわ。」
「…ラクサスはそれだけのことをしたんだ。しょうがないさ。」
「でも、あんな風に歪んでしまう前に私達…きちんと彼と向き合って話をするべきだったのよ。マスターも…。」

もう悔いてもしょうがないが、もっと早くにラクサスを止められたかもしれない。きちんと彼の心をすくい上げることが出来ていればあんな事態は起こらなかった。だが、皆彼を見放し、向き合うことをいつしかやめてしまった。

「だから、フリードが責任を感じるのは間違ってるわ。それで自分も居なくなろうなんてそんなこと―」
「違うよミラジェーン。僕は自分を許せないんだ。」

フリードの声色が優しくミラジェーンの耳に届く。顔を上げて彼を見ると困ったような笑みを浮かべていた。

「僕は…ラクサスを止められなかった。近くにいたのに、間違っているとわかっていたのに。もちろんそれも許せない。だって、そのせいで皆を傷つけたんだから。」
「フリード…」
「でも、違うんだ。一番はそこじゃない。僕は一番、君に顔向けできなくて。」
「………私?」

なんで私?私がフリードを殺しかけたから?

理解できないという風にミラジェーンは首をかしげる。フリードは掴まれていた腕をやんわり解き、傍にあったベンチに腰掛けた。

「僕はずっと、君を守りたかった。いつも一緒には居られないし、君は十分強いから守られなくたって良かったのかもしれないけど、昔からずっと決めてたんだ。」

そう、昔から彼女を守るのは僕だと決めていた。気が強くて意地の悪い、皆から恐れられるような昔の彼女も、リサーナを失って力を封印し自分を責め続けていた彼女も、とにかくミラジェーンを守ると誓っていた。初めからミラジェーンは特別だったから。

だけど。

「僕は君と戦った。君を傷つけたんだ。それが許せない。」

フリードは眉間に皺を寄せて苦しそうに告げた。ああ、なんだ、簡単なことだとミラジェーンは微笑む。今なら彼を救える、彼を見れる。ゆっくりとフリードに歩み寄り、ミラジェーンはしゃがんで彼を見上げた。

「じゃあ、これから守って?ずっと、隣にいて。」
「―ミラジェーン?」

フリードの手を両手で優しく包みミラジェーンは柔らかい笑みを浮かべる。

「私もフリードを守るから、フリードも私を守って。出て行ったりなんかしたら、私貴方のこと一生恨むわよ。」

頬を膨らませるミラジェーンだが昔から変わらない、優しいのだ彼女は。フリードは適わないといったように溜息をつき、ミラジェーンの腕を引く。そのままそっと、みずみずしい唇にそれを重ねると、ほんのり色づく彼女の頬に手を添え「了解。」と一言呟きもう一度口付けた。

「―好きだよ、ミラジェーン。」

―ほら、君と居るだけで不思議と。



世界はこんなにも愛おしい!


prev - next

back



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -