弛まず響く


両手に持ったそれと表情とかまるで噛み合わないのがこの子らしくてブルブル震える腹筋がもう限界!!


「ブハッ!!ぶくっ、くくくっ!はははっ!もう駄目だー!!なんでそんな顔!?しかもそれ持ってさ!!」
「鳴、笑いすぎ!!」


もう不本意!!と今さっき紙袋から取り出したそれを乱暴にガサッと入れ直した陽菜は滞在中ホテルの椅子にそれをポンッと置いて溜息をついた。恨めしげに目線を遣るのがまた面白くて、ぶくくっ!と笑いが収めらんない俺の座るベッドにボフッと座った。


「たまにあったけどね」
「ああいうプレゼント?」
「そう。こっちじゃわりとスタンダードだよね」


ゴムを渡されたこともあるよ、と溜息混じりに続ける陽菜。え、マジ?


「それって女から?」
「もちろん。男から渡されたらその場で突き返して一生口利かないよ」
「ブハッ!陽菜らしいよ」
「ジョークと失礼な境界線が見極められない人は嫌い」


そう低く唸るように言う陽菜に、ちなみにアレは?と投げ出されたいかにもなピンク色の紙袋を指差しムスッとする陽菜の横顔を隠す髪の毛を耳に掛けてあげるとぴくりと身体を揺らす陽菜が優しく目を細めてそのまま俺の頬にキスをする。っ…本当、可愛いことを躊躇いなくするようになったよ、陽菜。移動続きだとなかなか一緒に居られないからその反動もある。互いに。カァッと顔が赤くなるのを感じる俺に、あはは!と笑う陽菜が離れきる前に腕を引き俺は唇にキスをする。こんな流れが最近は当たり前になってきて、強請られてんじゃねェかなって勘違いしそうになる。まぁ陽菜のことだからそんなことはないんだろうけどさ。

1度や2度じゃ足りなくて、離れては合わせてを繰り返す。視界がぼやけるほどの距離で互いを見つめ合って、またすぐゼロ距離。柔らか…唇。めちゃくちゃ気持ち良い。あーやば。止まれるかな、俺。なんて考えながら陽菜の腕を引き寄せ抱き締め頭の後ろに手を回し軽く拘束。
ぺろ、と唇を舐めると味付きのリップなのか少し甘い。


「ふ、ぅ…んっ」


逃してやれる気はしないけど、陽菜だって逃げる気なし。ともくれば可愛すぎて堪んない。俺の腕を掴んで開いた口に舌を差し込む俺にぴくりと震える陽菜が苦しそうに息をしながらも絡め返してくる。
あー…可愛い。やっぱ次の移動はずっと連れて歩こうかな。俺がいない時に一也とかと会うのも面白くねェし!

甘ったるい感情が胸の内に広がって勝手に息が漏れる。なんだっけ、あれ。よく俺と陽菜を取り上げてたSNSに寄せられたコメントであったやつ。…あぁ、あれだ。致死量の愛…とかなんとか。上手いこと言う。本当そんな感じだよ。


「ていうか貰ったゴムってどうしたの?」
「え?」


お、もう蕩けた顔してる。目尻が下がって焦点が定まらない陽菜がしばらく俺を見つめてから、あぁ、とやんわりと俺の腕を押すけど力が抜けたみたいでフラフラしながら座り直す。……疼く。あとでもっとふにゃふにゃにしてやろ。

陽菜はまたムスッとしながら紙袋を見る。


「それは返した。だって使わない」
「…ふうん」
「なに?なんか腑に落ちない様な声出して」
「べっつにー」
「………」
「すっげェ顔!」


じとりと目を細め口も尖らせて顔のパーツ全部真ん中に集めたような顔をする陽菜に俺も片眉上げる。今更といえば今更だけど、今まで何人と付き合ってきた?…なんて今は聞ける気がしねェし!だからと言って知らないのも気持ち悪い。
はあぁ、と溜息をつき座るベッドに両手をつく俺の隣から立ち上がった陽菜は改めて紙袋を手にしてかさりと中を覗く背中を見ながら目を細め口を開く。黙ってたってしょうがねェし。
移動日の2日目。
初日ナイトゲームの日には陽菜は帯同せず、今日のデイゲームの観戦に間に合うように陽菜が合流した。同じ飛行機で移動できないわけじゃないけど、球団で働いてたこともあって遠慮する陽菜が昨日一也たちと飯を食ったと聞いた瞬間にこっちで食った美味い飯が途端に味気なく感じたっけ。で、今日試合の後に陽菜と食った飯がすっげェ美味く感じたとするとこれはもう決まりだね!俺の身体を作る栄養の一部だ、陽菜は。


「陽菜」
「うん?」
「聞きたくねェけど、聞く」
「!…変なの。聞かなきゃいいのに」
「知りたい方が大きいから諦めることにした」


苦笑交じりになる俺の声にパチパチと丸くした目で瞬きしながら振り返った陽菜に手を差し出せば思案げにしながら俺の手を取ってくれる。あーぁ、ムスッとしたいのに顔が緩むじゃん。ゆっくり指を絡めて優しく擦っていれば、ふふっ、と笑い声。うん?と顔を上げる俺に向けられた優しく愛おしげな眼差しに、ハイハイ!もう降参!俺も顔が緩みっぱなし!


「鳴の手、好き」
「!…んー?手だけ?」
「分かっててそういうこと聞くんだから」
「陽菜の声で直接聞くからいいんじゃん!」
「もう…。…好きだよ、鳴。鳴の全部好き」
「へへっ!ありがと!」
「嬉しそうな顔」
「まあね!!」


ふふんっ!と緩みっぱなしの顔はもう諦めて陽菜に、好きだよ!と俺も伝えれば陽菜も顔を緩ませて、ありがとう、と嬉しそうに言ってくれるから、よし!この勢いで聞く。


「陽菜さ、俺と付き合うまでに何人と付き合ってきた?」
「はあ?」
「気になる!」
「んー…」
「は!?思い出すのに時間が掛かるほどいたわけ!?」
「違う違う。うーん…えっと。端的に言えば2人しかいない」
「へ…」
「信じられない、って顔!」
「それは、」
「うん?」


それはしょうがねェじゃん。だって俺が知ってる陽菜は不器用で自分の想いに妥協がないからなかなか人を懐に入り込ませないけど、心を許すと枠なんて関係ないぐらいに深い付き合いをする子だ。良いか悪いかって言ったら微妙なところだけど一也が陽菜にとってのそれ。あぁ、アンディーもかな。あ、深いっていうのは関係性じゃなくて、心の奥深い繋がりっていうか…そういうの。浅くすげェ広く、は仕事で。プライベートはすっごく狭くめちゃくちゃ深くって子。まぁそんな陽菜だから俺に寄せてくれる想いに嘘一片もないって分かるけどさ。
そんなわけで俺が眉を寄せてしまうのも"信じられない"とはまた違う、陽菜がそう思ってなくても想われてたでしょ、っていう疑心ってわけ。

ただ言葉にするのは難しくてギュッと唇を結んでいれば、ふわりと笑う陽菜が俺の唇を摘んで楽しそうにムニムニとしてからまたポスッとベッドのスプリングを弾ませながら俺の隣に座って、ただそれだけ。俺の手を握ったまま、柔らかく俺の半身に身体を寄せた。


「ふふっ」
「へ!?なんで笑ってんの?」
「嬉しくて」
「!」
「鳴はこんな風にあんまり私のこと詮索しないようにしてたでしょ?」


そう、かも。
語るに落ちるようにポロッと出た俺の声にまたくすりと笑う陽菜が、うっ…かわい…。下から見上げるように見つめられて、しかも嬉しそうな顔で笑ってるし。その瞳が伏せられると薄いアイシャドウの色味や控えめなマスカラで上がる睫毛がハッキリと見えてどきりと心臓が跳ねる。

陽菜が嬉しそうに言う通り、俺は自分のことを棚上げで陽菜のことをああだこうだと詮索はしたくない。優しい陽菜のことだから、俺がそう聞けば同じように質問を返してくるだろうしそうなったら正直に返す俺の言葉に陽菜はきっと1人で傷付く。


「……なんていうかさ」
「うん」
「傷付けねェようにって、いつも想ってるよ陽菜のこと」
「!……うん。伝わってるよ」
「ん。…で、俺も陽菜がそうして俺を想ってくれてることちゃんと分かってる。でも今更っていうか、尚更っていうか。……陽菜だけだ」
「うん?」
「…うん、そう。そうだ」
「鳴?」
「俺を傷付けられるのは、陽菜だけ」
「!」


想いを整理しながら言葉を紡いでいく。
俺の腕を抱えるように抱き締めて、小さく息を呑む陽菜を見つめ眉が下がる。そんな俺にこくりと頷く陽菜はキュッと唇を結び溢れそうになる感情を押し込めたような顔をする。それさえも俺だけに向けられる俺だけのものだと思うと俺だって胸がいっぱいだ。

傷付けて、ちゃんと傷付いてくれたことに心のどっかで安心したりする。陽菜が自分の付き合った人数を聞いて一憂する俺に一喜するのも当たらずとも遠からず。一緒に生きていくっていうのは、多分こういうことの繰り返しで穏やかさだけじゃ収まりそうもない俺たちのこれからはさぞかし賑やかだろうと思うと、ブハッ!と思わず噴き出し笑う。


「あーあ!」
「わ!!」


ドサッと陽菜を道連れにベッドに仰向けに倒れる。前から気になっていた憂慮があっという間に晴れた。俺といる陽菜が1番幸せなんだって実感はこの子がちゃんとくれる。いつも一緒にいるんだから万事解決!

びっくりした、と笑う陽菜を隣に天井を見るともなく眺め続ける。


「陽菜と一緒だと俺の人生超賑やか!退屈知らず!!」
「!あはは!こっちの台詞!」


ひとしきり2人で笑った頃、これもその1つ、と身体を起こした陽菜がさっきから頻繁に手にする紙袋は今日ダンの奥さんから、プレゼント!とウインク付きで貰ったやつ。ウインクなんて出来ないなぁ、と目を不器用にパチパチさせた陽菜に、俺の方が上手いし!と対抗した俺を、どこで張り合ってんだよ!と笑ったダンに、悪いな、と謝られた意味はホテルの部屋で紙袋の中身を2人で確認して分かった。

うーん…、と困ったような、けど貰ったのだから感謝が必要かと葛藤するような複雑な表情をする陽菜の隣で俺も身体を起こして紙袋の中を改めて覗いてみる。


「ヘレナ、なんで私のサイズ分かったんだろう?触っただけで分かるもの?」
「俺に聞かれても。て、は!?触られたの!?ダンの奥さんに!?」
「正確には揉まれた」
「はあ!?俺のなのに!?」
「鳴のじゃない」


スッパリと切り捨てすぎじゃん!!ときめいたり…は、しないか。


「前にチラッと相談したから多分ヘレナ的には親切でしてくれたんだとは思うけど…」
「相談?」
「うん。下着、サイズ合わなくなってきたって話したでしょ?」
「あぁ、うん」
「それで下着を買うならお勧めあるかな?ってヘレナに。ヘレナ、ダンと結婚する前はモデルをしてたし服のプロデュースもしてたから」
「へぇー」
「知らなかったの?」
「うん」
「えぇー…」


チームメイトのことなのに、と続ける陽菜に、そんなもんだよ、と肩を竦める。ダンがどうかは別としてその奥さんのことに興味なんかねェし。陽菜が職業柄、選手のことを詳しく把握してただけでさ。

じとりと俺を見る陽菜に肩を竦めると肩を竦め返した陽菜が取り出したそれはダンの奥さんが陽菜のために選んだと渡してきた下着の上下。めっちゃくちゃ色っぽい感じの。


「レース多めで可愛いし色も好きなんだけど…」
「つけてみれば?嫌じゃないなら」
「んー…やっぱり返す」
「あの人は別に悪ふざけしてるって感じじゃなかったじゃん」
「あ、違うの。それは分かってる。けどヘレナが、成宮が喜びそうなデザインにした、って言ってた。だから嫌」
「!」
「鳴が喜びそうなものは私が自分で選びたいからって、ヘレナにお店教えてもらう」
「ッ……もうそのまんまの陽菜でおいでよ。どうせ剥ぐし」
「剥ぐって…っ!?み、身も蓋もない…!」
「じゃ早速」 
「え、ひゃ…!待っ、」
「あんなこと聞かされて、もう待てなーい」



弛まず響く
「陽菜ー!!」
「ひゃあぁ!!」
「はあ!?」
「あれ?陽菜、あげたやつ付けてくれてないの!?」
「へ、ヘレナ!急に後ろから触るのは止めてってば!!」
「ちょ、な…!ダン!!」
「んー?なんだなんだ?妬くなよー成宮」
「ごめんね成宮。陽菜の胸、柔らかくてやめらんないのよ。あ、また大きくなった?」
「もー!!」
「ダンー!!」
「だから謝っただろ?」

2021/05/28




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