「成宮ー!!」
「うわ!!また須田さんめちゃくちゃ怒ってる!!なに!?血管切れるよ!?」
「誰のせいだ、誰の!!」
「ちょっと近い!ツバ飛ぶじゃん!!」
「昨日!また女と別れたのか!!」
「それ確認に来たの?それとも知ってて文句言ってんの?」
「両方だ!!」


キーンッと耳を抜ける声に顔を顰め両耳を塞ぐ練習後、帰る直前球場の出入り口廊下。うわー…捕まっちゃったよ…。
昨日って、あのモデルの子か。店に置いてきちゃったしもう連絡取ろうとも思ってなかったけど。

フーフーと鼻から息を荒く出して肩を揺らす須田さんに眉根を寄せ仕方がないなと口を開く。


「別れたわけじゃないよ」
「じゃあなんだ!?SNSでお前の名前を調べると出てきたぞ!!」
「えー?エゴサーチ?暇だなぁ、須田さん」
「仕事だ!!」
「あっちが勝手に言ってるだけ。端から付き合ってない」


球団が打ち出す俺のイメージがいつの間にやらプレイボーイでありながら野球には紳士に向き合うなんて意味分からないもんになってて、なにそれその2つって反発し合うもんなの?よく分かんねェんだけど。

グッとたくさんの文句を飲み込んで表情筋をピクピクと震わせる須田さんには申し訳なく思うよ。いつもこんな風に怒らせちゃうし。でも俺は俺のやりたいようにやりたい。そのために野球だけは誰にも文句言わせねェ努力はする。
ただ、恋愛はそうもいかない。


「ねー須田さん」
「なんだ!?良い話ししか聞かないぞ!!」
「うるさいなぁ、もう。そんな怒ってると血管切れるってば」
「誰の!せいだと!思って!!」
「ハイハイ、俺ね。なんだよ、いつも俺が悪ィの?」


あ、やべ。思った以上に冷たい声が出ちまった。
須田さんもハッとした顔してるし気まずい…。けどついて出た言葉を止められるわけもなく、堰を切ったように須田さんに聞かせるためじゃなくただ吐き出すように話し続けてしまう。


「俺は嫌なもんを嫌って言っちゃいけねェわけ?付き纏われて言い寄られてさ、好きでもねェのにホテル連れ込まれんだよ?」
「はあ!?初耳だぞ!!」
「今言ったし」
「致したのか!?」
「ブハッ!言い方ー!!そんなんだから広報の若い子達に須田さんは話してて歴史の教科書読んでるみたいだって言われんだよ!」
「初耳だ!!」
「そりゃそうでしょ。ていうかそんなのどうでもいいんだって!」


良くはない、とがくりと肩を落とす須田さんはいつだってビシッとスーツを着て厳格な人。聞くに男の子の子供2人の少年野球の監督をやってるっていうんだから面倒見の良さも頷ける。

苦労が毛根にきちゃいそう、なんて思いながら肩を竦め目を細めて廊下の壁に寄りかかる。


「みんなさ、俺を連れてる自分が好きなんだよ俺じゃなくて」
「そんなことは…」
「ない?そんなわけねェじゃん、須田さん。だからそういう子に対して誠実に接するの疲れちゃったんだよ」
「成宮…だがお前は、」
「"プロ野球選手だぞ"でしょ。分かってる。ただこれだけは言うよ。俺からああいう子たちに危害を加えるつもりなんてねェし、それだけの興味もない。暇でもないしどんなに高慢って言われようとも俺には関係ない」


例えばさ、ショーウィンドウに飾られたアクセサリーがあるとするじゃん。女の子は俺とデートしていてそれが可愛いと目をキラキラさせてかじりつくんだよ。で、買ってあげるけど次の瞬間にはこっちも可愛いだなんてまた言う。そういう感じじゃない?俺と付き合うのって。外から見てたものが実際手にしてみたら違ったとかって言ってさ、洋服やアクセサリーを付け替えるみてェなそういうやつ。
みんながみんな、そういう子だとは思ってない。けど残念なことに大半なんだ、そういう子。

須田さんが口を挟む間を与えず話し終えた俺は何か返せる?とばかりに肩を竦めてみせる。まぁ須田さんにこんな愚痴を零してェわけじゃなくて、つまり俺は悪くないってこと言いたかっただけ。そんな申し訳なさそうな顔させるつもりじゃなかったんだよ。ごめん。


「じゃ、行くよ。お疲れ様ー」 
「成宮」
「なに?」
「…愛さなきゃ愛されないぞ」
「!…なにそれ。誰かの名言?ま、心に留めておく」


ひらりと手を振って背を向け歩き出す俺は眉根を寄せて奥歯を噛み締める。愛される?俺のこと愛そうともしねェ子なんか愛せるわけねェじゃん。
話せば話すほど理解されねェ疎外感。どうせ分かってもらえねェんなら話すのも面倒。俺の言葉を尽くして行動で示して、カッコ悪いとこも全部受け入れてもらおうと思うような子が現れる未来が想像にも許されねェほど恋愛に関しては期待もしてない俺はそういえば彼女のいるアイツと最近飲んでねェなとスマホを手にした。


「お前な、場所だけ指定して返事聞かねェのやめろ」
「久し振り、一也」
「こらこら。人の話を聞けよ」


いい大人がなんやらかんやら、ブツブツと言いながら変装用に掛けていたサングラスを外した一也を見上げニッと笑えば呆れたように目を細められた。なんだよいいじゃん。今更遠慮し合うような仲でもねェし。


「聞いたぞ。またやらかしたんだってな」
「はあ?誰に?」
「広報。そっちの、あー…」
「もしかして須田さん?」
「あぁそうそう。その人と知り合いだって言ってさ」
「それって情報漏えいじゃん」
「何言ってんだ馬鹿。そういうのは知られて困るようなことをやってる奴が言う台詞じゃねェっつの」
「別に知られて困るようなことはやってねェけど」
「そうおもってんのは鳴だけだぜ」


ったく、と溜息つきながら座ってテーブルにポケットに入れていたスマホと車の鍵を出した一也に、車かよ、とブスッとすればにやりと笑われる。うっわ、悪ィ顔!!


「車で来れば無理に飲まされることねェと思ってな」
「相変わらず性悪ー。いいじゃん、彼女に迎えに来てもらえば?」
「バーカ。あっちも仕事してんだからそうもいかねェの」
「ふうん。そういうもん?」


仕事って言ったって一也と付き合ってて将来を考えてんならいずれは辞めんだよね?…ま、一也たちの問題だろうけど。
ていうか、一也は気付いてねェんだろうな。彼女の話をすると少しだけ表情が柔らかくなってる。相当大事な子なんだって俺でも分かる。彼女…青道の同級生で、卒業間際に付き合い始めたって前に言ってたっけ。

適当に頼んだ、とメニューを手にしようとする一也に告げると、俺は俺の食いたいもんを食う、だって。ほーんと変わんねェ、一也。誰に何を言われても頑なに意思を通し抜くとこ。


「彼女とどうなの?」
「はあ?んな話しがしたくて呼んだのかよ」
「べっつにー。今思っただけ」
「あっそ。どうともねェよ」
「結婚とか考えてんの?」
「…そりゃいずれはな」
「へー!!無理でしょ、一也は!」 
「お前にだけは言われたくねェ!!」
「なんで?俺、意外と尽くすよ」
「そうかよ。そういうのは別れたモデル前に言ってやれよ」
「付き合ってねェよ」
「はあ?」
「あっちがそんな風に思ってただけ、勝手に」
「お前な…いい加減にしとけよ」
「なんで?別に悪いことしてねェじゃん、俺は」


料理が運ばれてきてついでに一也が自分の食いたいものを店員に頼むのを俺は一足先に料理を食いながら眺める。
球界のイケ補ね。確かに面はいいし実績もあって発言も素行も品行方正。結婚したい野球選手No.1に選ばれても不思議じゃないか。性格は悪ィけど!!

俺の言葉に二の句が継げないのか、店員が部屋を出てからも眉根を寄せる一也に肩を竦める。


「別に普通のことだよ。男女が一緒にいれば起こることは起こるし、お互い子供じゃねェんだから分かってるし。ただそこに利害が発生するからいつもややこしくなってるだけでさ、俺から求めたことはないよ」
「……鳴、お前いつか後悔するぞ」
「…何に対して?」
「いつかすげェ好きな人が出来た時に自分に対して」
「ブハッ!ははっ!一也らしくねェの!」
「笑うなっての。ったく、こっちは真剣に言ってるっつーのに」
「ごめんごめん。ま、俺のことはいいよ。あ!帰り乗せて!」
「はあ?嫌だ」
「なんでさ」
「自分のことは自分で責任持てよ。大人なんだろ?」
「ムッカつく!!あ!ていうか彼女の写真とかねェの!?」
「ねェよ。あっても見せねェ」
「つまんねェ。可愛い?」
「さあな」


彼女がどんなかなんて興味はなかったけど、一也に大事にされてる子がどんな子かは気になった。聞けどもやんわりと答えになってねェ言葉を返されるだけでその内どうでもよくなった。これからの野球のこと。今シーズンの課題。チームの状態やドラフトで獲得された高校生のこと。話す種はいくらだってあるからしばらく話していれば一也がトイレに立ち、残されたのはスマホと車の鍵、そして予定を確認するために取り出していたスケジュール帳。


「迂闊だなぁ、一也は!」


プププッと笑いながら当然手に取り、開いてみる。スケジュールなんてスマホのカレンダーに管理すりゃいいのに、と言えばスマホを忘れることが多い、だって。一也らしい。

で、こういうとこに大事なもんが挟んであんのは鉄板。


「お!あった、あった!予想通りー!」


んー?あれ、まだ青道の制服着てるじゃん。高校の頃か。

スケジュール帳に挟まっていた写真を発見し手に取れば写真の中には懐かしい面影の残る一也ともう1人、女の子が写ってる。へーこの子が彼女か。青道の大きな青いリボン、可愛いよね。幼さの残る2人は背景から察するに室内練習場らしきところで笑ってる。ていうか、この子が持ってる紙なに?《た》?
…楽しそ。俺も卒業間近になると色んな子から告白されたりプレゼントを貰ったり写真を撮ったりしたけど、こんな風に大事にしようとも思わなかった。ほとんどが知らねェ子だし、なんなら彼氏のいる子も多かったし。

………んー…でも、なんだろう。この子、どっかで見たことがあるような気もする。まぁ、青道なんだし試合とかに来てりゃもしかしたら目にしたこともあるかもしんねェけど。

目を細めジッと写真に写る一也の彼女らしい子を見つめ記憶を起そうとしていればどうやらタイムリミット。部屋の外で足音がしてササッと戻した。



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