シーズンはオフになったものの、ファンを対象にしたイベントやキャンプも近い。加えて優勝した俺たち球団は優勝感謝パレードも予定されていて、実はスケジュールがかなり詰まってる。


「それではよろしくお願いします」
「はい、お疲れ様です」 
「身体は休められましたか?」
「あー…まだ100%とは言い難いっすね」
「忙しいですもんね」


すみません、と自分は悪くねェのに俺の状態を慮り頭を掻きながら謝ってくれる広報担当者に、いや!と頭を振る。


「こちらこそ逐一連絡をくれるんでスケジュールの調整がしやすいんで。ありがとうございます!」
「いやぁ、忙しいのも皆さんの活躍あってこそですからね!自分らは倉持さん含め皆さんが気持ち良くプレイできるように環境作りに全力で努めます」
「!…広報の仕事って、大変っすよね?」
「え?まぁ、大変ですがやりがいありますよ!あ、青道野球部の元マネさんも広報なんですよね」


陽菜のこと、だよな?なんで知ってんだ?
思いがけないところから陽菜のことを言われ返す言葉を失っていると、あぁ!と俺の疑問に気付き言葉が足りませんでしたと謝り先を続けた。


「倉持さん、試合終了後にお会いになってましたよね。あの時に撮られてた写真を自分の後輩に送っても問題ないかと広報宛にあちらの球団広報の名をしっかり名乗り連絡があったんですよ」
「アイツが…」
「…おそらく、ですが。倉持さんはプロポーズをするお相手もいらっしゃるし、あの方が裏で会っていた目的を暗にこちらに知らせてくださったのかと思います。広報の立場からすれば選手の私生活を把握し憂慮を取り除くのは責務のようなものですから」


若いながら優秀な方ですね、とそう言われどんな顔をしたらいいのか分からねェ俺は曖昧に笑い返した。陽菜はもう、俺らの代の元マネってだけじゃねェ。MLBのチームで広報に就き成宮と一緒に仕事をする立派な大人の女だ。高島副部長みたいに、と憧れて自立した大人っつーのを目指していたアイツにその姿を見せられたような気がして口角が上がる。くそ、分かりづれェんだよ!分かるように見せろや!

そんなことがあった数日後にはどういうつもりか御幸から連絡があり、飯行こうぜ、などといつもの調子で誘われた。
絶対に何か裏があんだろ、と訝しく言う俺を、そんなこと言わない!、と送り出した彼女も結婚を前にして友達から呼び出されることが増えこの日も途中までは一緒に来た。飲みすぎんなよ、と駅の中へと入る姿を見送った後のコイツの胡散臭い笑顔がキツイ。


「はっはっは!相変わらず失礼な奴だな」
「うるせーこっちは忙しいのに来てやってんだから感謝しろや」
「それは俺もだっての」
「つか、お前は一緒かよ?」
「こんばんは。倉持くん」
「おう。仕事辞めんだって?」
「うん。一也に付いていくしね。準備もあるから早めに」


御幸の後ろからひょこっと顔を出した彼女改め婚約者が軽く挨拶をするコイツらはさっきまで互いの家族を含め食事をしてたんだと言う。
あ?なら飯いらねェじゃねェか。


「連絡して予定が合った時じゃなきゃ次いつ飯行けるか分からねェだろ?」
「!…チッ、もうあっちに行く気満々か」
「そりゃ行くぜ。お先に」
「うぜェ!!」
「あー!もう2人ともお店入ろう!!」


詳しい話は御幸からはされねェものの、すでにメジャーへの挑戦を決め内々には話しが固まってるらしいコイツが昔っからいけ好かねェ!!ただ、どんなところでも努力してやがるから今があるわけでそれが分かるだけに一々口にされんのがムカつくんだよ!

御幸の婚約者に諭され、入った場所は予め御幸が予約していたのだという個室のある創作料理店で、しばらく食べられないなぁ、と婚約者が惜しむ声に横に座る御幸が、だな、と返した。コイツら…マイペースだなオイ。俺が前に居んぞ。莉子に作ってもらうからいい、っつー惚気は他でやれやもしくは沢村の前な。


「陽菜と電話で話した」
「!…は?」


つか、婚約者と前で堂々と他の女の名前を出すな馬鹿!!

運ばれた前菜を食いながら世間話するみてーに出された名前にブッ!と噎せると俺に、大丈夫?と水を渡してくれる御幸の婚約者は苦笑いを零した。


「いいんだよ。私も三森さんに会ったし一也からずっと話を聞いてたからその通りの人でなんだか嬉しかったし」
「はあ?お前…無神経すぎんだろ」
「まったくねー」
「こらこら。揃いも揃ってひでーな」
「まぁいいけどね。結婚してから知れたら隠されてたことに余計な疑い抱いちゃうし」
「!ッ、ゲホッ!」


グサッと刺さる言葉だった。御幸の婚約者は同じ青道で同じクラスになったこともある。当時から2人が想い合ってんのはなんとなく見てて分かってたし、卒業を期に付き合ったコイツらに、まだ付き合ってなかったのか、と呆れたぐれェだ。御幸が隠し事に向くかそうじゃねーかっつったら向く方だとは思う。多分、黙っていると決めたら墓場まで持っていくような頑固な野郎だ。そんな御幸が自分からしっかり話し婚約者にも同じ認知をさせたっつー目の前で見せられ聞かされた事実に御幸がどうして俺を飯に誘い2人で来たのか分かった気がした。


「御幸、てめェ亮さんから何か聞いてんだろ?」
「どうだかな。倉持にそういう心当たりがあんならそれでいいぜ」
「くそ…!」
「飯が不味くなるから言うなそういう言葉」
「てめェが言わせてんだよ!」
「わあ!美味しそう!いただきまーす!!」
「「………」」
「オイ、お前の婚約者が傍観決め込んでんぞ」
「いつものことな」
「……はぁ」


気が抜けた。料理を美味そうに食うそいつの前でやる喧嘩でもねェ。俺も箸を持ち食えば確かに美味くしこたま文句を言ってやりたかったはずの口からは、で?と落ち着いた催促が出る。


「話していいっつーんなら遠慮はしねェぞ」
「はいはーい」
「だってよ」
「陽菜がなんだよ?」
「鳴と結婚が正式に決まったって、知ってるだろ?」
「!…あぁ」
「あの鳴だから心配しねェのが無理だからな。電話して色々聞いた」
「で?」
「心配なさそうだぜ、陽菜は」
「!」
「あと、鳴が青道のOB会に顔出すってよ」
「来んじゃねーよ!」
「俺に言われても知らねェっての。ま、そういうわけだ」


一応報告な、と御幸が続けんのを聞きながら婚約者を気遣い見れば、莉子も横で聞いてたぜ、と目線の意味を理解した御幸が飯を食いながら、な?と婚約者に同意を促す。


「うん、元気そうだった。電話越しにすっごい喧嘩!!私と一也はあんな喧嘩したことないなぁ」
「はあ!?全然大丈夫そうじゃねェじゃねーか!」
「あれな。うるせェのなんのって。鳴があそこまで女の子と騒いでんのは初めて聞いたけど」
「………」
「倉持。アイツは球場で彼女にプロポーズするお前の背中に、ナイスっつって写真を撮ってたぜ。……ちゃんと応えろよ」
「!…てめェに言われねェでも分かってる」
「じゃ、この話は終わりだな。飲もうぜ…って、もしもし莉子サン?もしかして酒飲んでる?」
「飲んでまーす」
「…マジ?帰りの運転は?」
「一也だね」
「ヒャハハッ!御幸、ザマァ!!」
「くーっ、そりゃねェだろ…」


がくりと項垂れる御幸に、ドンマイ、とその背中を叩く婚約者と苦笑いする御幸を前に目を伏せる。
あぁ、確かにそうだよ。
一生自分の中で抱えてるなら抱えたままでいい。それができねェんなら共有しろ。それが正しいのはずっと前から分かってんだよ俺だってそんなことは。
 
もう交わらねェ、俺と陽菜のこれまでもこれからも。
RPGゲームでいえば違うルートにそれぞれ向かい、それぞれに違うエンディングが用意されてる。その道が正しいかどうかなんて選択したその時には分かりゃしねェ。正しいかどうかは重要ではなく、その過程を楽しめるかどうか、だ。その結果が"正しさ"になる。
俺も、陽菜も。
あークソ。胸が痛む。吹っ切ったつもりでもどこかで吹っ切れてねェ女々しい自分が嫌いだ。


「…まずはOB会だな。倉持も来んだろ?」
「行かねェと亮さんに怒られっからな」
「その亮さんに怯えてる陽菜に会ってから考えろよ、ちゃんと」
「!」
「アイツ、礼ちゃんみてーにかっこいいぜ?」


ニィッと笑う御幸と頷くその隣の婚約者。俺の頭の中では未だ捨てられもしねェ陽菜が青道の頃に作った必勝を願う御守が浮かび、チッと舌打ちをすれば御幸が思案げに目を細めた。



CROSS LOAD
(分岐点は誰にでもある。ただ、そこに差し掛かるタイミングが違うだけだ)

ー了ー
2020/10/15

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