ありゃま…これはまた。


「ふっふっふっ!この沢村!本気を出せば赤点を回避するなど容易い容易い!!」
「うん、赤点スレスレね」
「僕もです」
「うん…とりあえず、お疲れ…」


なんだろう…この脱力感…。
テストが終わって、後輩2人が走って教室まで駆け付けてくれたのは嬉しいよ?さっき先生に怒られてたけど。廊下でバッと全教科のテストを広げて、見てくれー!!なんて言うから、これはもしや高得点…!?と思えばやっぱりね…。周りで見守ってた人たちも何かを察したように苦笑いを零して何も言わずに通り過ぎていく。優しさかな、あれ。

褒めて褒めて、と言わんばかりに目をランランと輝かせるから力が抜けて目尻が下がる。滝川先輩もこんな気持ちだったのかな。


「良かったね。これで野球に集中できるね」
「あざっす!!ちなみに陽菜先輩はどうだったんすか?」
「学年順位一桁とだけ言っておこうかな」
「マジっすか!!」
「神…」
「いやいや、違うよ降谷くん」


よしよしとちょっと背伸びをして栄純の頭を撫でてればムッとした様子で降谷くんが頭を下げてくるから、あはは!と笑い栄純と同じように撫でる。まったく、負けず嫌いすぎなんだから。


「ところで陽菜先輩!約束覚えてやすか!?」
「あ、倉持にファンタグレープ奢ってもらわなきゃ」
「そっちじゃなく!」
「あ、私の?」
「そう!陽菜先輩はなんで青道高校にきたんすか!?」


栄純が手にしていたテストをまとめて丸め、マイクみたいに突き出してくるから、こら、と頭を叩いて、いでっ!と呻くのを聞きながら教室を覗き時計を確認。うーん…。


「もうすぐ授業始まるから、またね」
「えー!!」
「そんな喚いてていいのー?私、次現国なんだけど」
「「!」」
「い、行くぞ降谷!ボスが降臨する前に!!って、もう居ねェ!!」
「あはは!!置いていかれてるじゃん!!」
「くっそー!!」


バタバタと廊下を走る栄純が見えなくなってからどうやら先生にまた注意されたらしく、すいやせん!!、なんて言ってる声が聞こえてお腹を抱えて笑ってると、あなたね、と呆れた声が後ろから。


「次は私の授業だけど」
「ああでも言わないと戻らないし」


さーて英語、英語!今日は当たらない予定ー、なんて歌うように言いながら教室に入る私の後ろから、当てましょうか、とキリリとした声が聞こえたけど聞こえないふり!

なんで青道高校を選んだか、かぁ…。
毎日野球部のみんなを支えることで頭がいっぱいできっかけなんて栄純に言われて漸く思い出したほど。
1番後ろの席で礼ちゃんが前回の授業のおさらいからするのを聞くとも聞きながらも窓の外へと目線を投げる。いい天気だなぁ…。暑いし汗めっちゃ掻くし日焼け止めなんて品質改良してほしいぐらいに意味ないけど。やっぱり夏が好き。
ゆっくり瞼を閉じると聴覚だけが敏感になって、礼ちゃんの声の他に冷房の利く教室の外で蝉の鳴き声がするのが分かる。
ちょっと…眠いなぁ。連日、栄純たちの勉強を見てあげてたから自分の勉強は必然と帰宅してからだったし…。午後の授業でお腹もほどよく満たされてて、落ち着く礼ちゃんの声に睡眠不足がセットとなれば寝るっきゃないよね…うん。
陽菜!とゾノの声がしたような。あ、してない。よし…寝よう…。


「陽菜!こっち、こっち!」
「え、待って!」


人スゴっ!!
高校の学園祭ってこんな感じなんだ…!中学とは違う、生徒が主体になってるのがよく分かるから見てて面白い!

家から歩いて行ける女子高が第一志望だった中学3年の秋。模試の結果からも申し分ないし、お父さんもお母さんも賛成してくれてる。友達も志望していたから尚更有意義な高校生活が送れることが容易に思い描ける。

出逢いを求めてー!、と拳掲げて意気込みを語る友達に引っ張って来られたけど…来て良かったかも。
広く綺麗な校舎に広い敷地。出店が通り沿いに出てて熱気と興奮に満ちてて歩きながら見てるだけで楽しい。それにしても…誰も彼も、大人っぽい。あんな風に見えるかな?私も高校生になったら。


「って、いない!」


えぇー…置いていかれた…。あの子、同じ中学の先輩がこの高校だからって会いに行くって意気込んでたもんなぁ…。何が出逢いよ、もう。

ふぅ、と一息ついて中学生がたった1人なのもこんな大勢の高校生の中で心細いから人気のないところに足を向けた時。


「1人?」
「は…?」


グィッと手を掴まれて開口一番それ。
不審いっぱいな声で振り返ればにやりと笑ったのは不審者そのものじゃん!!怖い!一回りほど大きな高校生は額にハチマキをしていてクラスのTシャツを着てる。ガラが少し悪そうな雰囲気にゲッと内心呟く。


「な、なんでしょうか?」
「俺、今休憩中だから一緒に周ろうよ!」


なぜ初対面で…?高校生、すごい…。
感嘆というよりは呆れが勝って絶句していれば、ちょー!!引っ張んないでよ!!


「中学生でしょ?ウチ、受験?」
「いや、違っ…!やだってば!!」
「はいはい。おいでー」


この人耳腐ってんですけど!!
グイグイ引っ張ってくる男の人に抵抗虚しく滑りのいいコンクリートの地面でズルズルと引きずられてしまう。しかも人気のない方じゃん最悪…!

ゾッと怖さが背筋に駆け抜けて身体が固まるけどそんな場合じゃない。なにあれ可愛いー、と女子生徒さんが暢気に言うのを聞きながら、金蹴りしかない!、と足を振り上げる。ごめんなさい!!


「うおっ!!」
「!」


え、私まだ何もやってません…無実。
男子生徒の身体がぐらりと傾き、私はパッと手が離れた反動で後ろに倒れる…かと思いきや今度は違う手にまた掴まれて、行くよ、と走り出すとか…もう、なに!?


「あ、ありがとうございます」
「………」


頭の中を整理しよう。連れて来られた先は裏庭みたいなところで、人気も人の声も少し遠い。さっき、あの男子生徒に体当たりしてきて尚かつここまで連れてきてくれた人をジッと見れば目深にキャップを被ってて顔が見えない。男の子…というのは格好で分かるけど。


「あの、」
「バッカじゃないの」
「!……はい?」
「怖いなら怖いって言えばいいじゃん。周りに人いっぱいいるんだしさ」


キングオブ、失礼な奴…!


「咄嗟にああなれば怖くて出ないから声なんて!」
「今、出してんじゃん。なにそれ、飾り?それともか弱いアピール?」
「なんのために?意味分かんない。アピールシたい対象がどこにもいない、目の前の人は論外」
「かっわいくねー!その目に溜まった涙流して礼ぐらい言えねーの!?せっかく大事な身体で体当たりしたってのに」
「大事な身体?」


嫁入り前の女?
眉を顰めれば私を見下ろすようにして立った彼が私を真っ直ぐ見つめるから、やってやろーじゃないの、と私も負けじとジッと見つめる。眼鏡に光が反射してよく見えないけど。


「ブース!」
「はあ!?」
「眉間にシワ寄せて可愛くねー!」 


な、なな…なんて失礼な…!怒りでフルフル震えるなんて初めての経験で開く口から上手く言葉を出せずにいれば彼はニッと口角を上げてからベッと舌を出し勝ち誇ったように胸を反らした。


「おい!行くぞ!」
「あぁ、ごめん!…じゃあ」 
「ちょ…!」


行った…言うだけ言って勝手に勝ち誇った彼は友達らしき人に呼ばれ、お前が来たいって言ったんだろ、と4人ぐらいに囲まれて…。

秋の、稲城実業高校。
友達に連れて来られたこの場所で人生最大失礼な奴に出会ってしまった…こんな出逢いはほしくない!!


「バ…バーカ!!」 


思いっきりお腹の底から出した声は校舎に反射して辺りに響き、間もなく友達が見つけてくれた。


「ぷくくっ…!」
「何笑ってんだよ」
「気持ち悪い」
「んー?内緒!!あの子、ここ受けんのかなー?」



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