:: 紅い彼
好きだ、と掠れる声が耳に届いた。
「へ?」
その言葉に勢いよく顔をあげて見ても、ブルーの瞳はこちらには向けられていない。
もしかしてただの聞き間違いだっただろうか?
だって彼が、あのディーノがそんな言葉を言うわけが……
「いま、何か言った?」
そんな葛藤に何とか言葉を紡いでから、そよそよと揺れる紅い髪に目を奪われる事、数十秒。
「……え、……え?」
誰よりも人間嫌いで、絶対に相手にされてないと思っていたのに。
紅い髪と同じように、僅かに朱を差したように見える彼の頬のーーなんと人間らしい事か。
「やっぱ、なんでもねぇ」
まるでサイドスワイプのような拗ねた風な口ぶり。
あぁ、もう、と。
言葉の代わりに、未だそっぽを向いたままの彼の身体に両手を伸ばした。