ぼそぼそと声がする。ヴィンセントさまの落ち着いた低い声に、この少し芯のある高い声は……ヘンリーだ。

「いったいどういうことなんだ」
「つまり、ヒューマンペットというものは、もともと身寄りも行き場もない子供たちを改造して作られたものでして、まず最初に脳死状態にします。それから、研究所の独自の技術で作られたICチップを脳に埋め込むんです。まあ、猫耳なんかは研究員の趣味ですが」
「だから、それがどうしたって言うんだ」
「前頭葉が感情や衝動を抑える役割を果たすのですが、ICチップとの相互作用によってそのはたらきが異常に発達するんですね。それで、ヒューマンペットは一般的に感情を抑え込むことができるわけです。ところが、ミーアのICチップはまだ試作品の段階でして、誤作動を起こしている状態です」
「……それはつまり」
「原因はよく分かりませんが、突然押し寄せた感情の波に前頭葉が勝てなかったため、ICチップがショートしてしまって意識を失ったと考えられます。それを今、一応直したところです」
「ミーアが感情を持ってはいけないのか?」
「良い悪い以前に、通常ありえないことです。僕はこれを上に報告して研究所にサンプルとして提供しなければなりません」
「ふざけるな!」

 突然の大声に身体がびくりと震え、思わず起き上がった。自分に宛がわれた部屋のベッドに寝かされていた。
 ヴィンセントさまが怒鳴ったのなんて、初めて見た。

「ミーア、目が覚めたのか」
「あの、私……さんぷるになるんですか」
「そうはさせない。ミーアはずっと俺と一緒だ」
「アランさま」
「絶対にミーアを研究所になんか渡さない」
「そうはいかないんです。ミーアはもともと試作品で、同じ型番のほとんどがすでに同じような誤作動を起こし研究所に引き取られているんです。例外は認められません」
「研究所に引き取られたらミーアはどうなる!」
「詳しくは、管轄外なので知りません。先日点検したヒューマンペットはMD-00の型番でしたがICチップが最新のものでしたので、試作品が改良されて再びオークションに出されたんだと思います」
「改良?」
「ICチップが最新のものであるということは、つまり」
「つまり?」

 ヴィンセントさまが私の肩を抱くようにして、ヘンリーに厳しい目を向ける。
 私は試作品で、誤作動を起こして、だから欠陥が生じて研究所に送り返されて、改良される。それの意味することが分からない。でも、改良と言うことは、私はきっともっと良質なヒューマンペットになれるということで、それだったらヴィンセントさまにもっと喜んでもらえるのかもしれない。

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