「へえ。またそれは珍しいものを」
「とても美味しくて、ヴィニーがそんなものを買ってきてくれたのが、うれしかった!」
「……。そう」
ヘンリーは眉を寄せて、世間話のおかげで止まっていた手を動かし出した。
「ほら、早く済ませないと」
「急ぐのね」
「あんまり点検が長いと、アランさまに僕が怒られるんで」
どうして点検が長いと、ヴィンセントさまは怒るの? そう首を傾げると、ヘンリーは苦笑いした。
「ミーアに長々と触っていると、怒られるんだよ」
「どうして?」
「そりゃあ、お前はヒューマンペットだけど性別は女だし、身体の機能も女で、僕は男だ」
「それが、どうかしたの?」
「時々いるんだよ、点検とか言ってヒューマンペットに悪戯する整備士が」
「悪戯って?」
「だから、例えば……」
ヘンリーのてのひらが私の胸に触れた。ん、と思うのと同時に、部屋の扉が開く。
「ヘンリー、ずいぶんと楽しそうなことをしているじゃないか」
「ア、アランさま……」
「ヴィニー、どうして怒っていらっしゃるの?」
「ミーアは何とも思わないのかい、その手について」
「手?」
青い顔をしたヘンリーの手が、ばっと私から離れた。
「ヘンリーが、ヒューマンペットに悪戯をする整備士もいるって教えてくれたの。悪戯って、なんですの?」
「……ヘンリー、異常はないんだろう? 早く次に行ったほうがいいんじゃないか?」
「それなんですが、少し、お話したいことがありまして」
ヴィンセントさまの眉がぴくりと上がり、無言でヘンリーを私の部屋から連れ出した。
私はすっかりつまらなくなってしまって、ベッドの上で自分の尻尾を追い回す遊びを始める。
重厚な扉の向こうで、ヴィンセントさまとヘンリーが何か話しているのだろうけれど、まったく何も聞こえないので、私は気にしないでお昼寝をすることにした。
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