いじけた声が出た。ヴィンセントさまは、きょとんとした声を発したあとで、眉をひそめた。

「誰に何を聞いたんだ?」
「……マーガレットが、言ってました、今日ヴィニーはお見合いだって」

 ヴィンセントさまがため息をつく。その深い重たいため息に、一気に不安と後悔が押し寄せる。
 黙っていればよかった。言わなければこんなにずっしりとした空気にならなくて済んだのに。わざわざ自分から一緒にいられる時間を短くしてしまった。

「確かに、今日は見合いだったよ」
「……!」
「でも、ミーアが何を心配することがあるんだ? 俺は結婚なんかしないし、そもそもミーアがいるだろう」
「で、でも、私ヒューマンペットです」
「それが、どうかしたの?」
「人間の女性には勝てっこないし」
「勝負じゃないんだ、こういうことは」

 ぐずぐずと言っていると、ヴィンセントさまが私の髪の毛をそっとすいて、耳にくちづけた。

「ミーア」

 耳の奥や頭に重く垂れ込める低い声。ふるりと身を震わせると、ヴィンセントさまは耳元で笑って私をそっと抱きしめた。そのまま抱き上げられて、ふわりと身体が浮いた。

「ミーアは何も心配しなくていい。俺は君以外に誰か女性を連れてくるつもりは一切ないから」
「……でも」
「それにしても、ミーアは最初の頃よりずいぶん重たくなったね。喜ばしいことだ」
「太りましたか?」
「いや? 成長したってことだよ」

 にこやかに笑っているヴィンセントさまは、ふと少しだけさみしそうな顔をした。

「こうして抱き上げるのも、もう失礼な年齢になってしまったのかな」
「……」
「もう少しレディとして扱わないといけないね」
「……ヴィニーがしてくれるなら、なんでもいいですの」

 床に降ろされて、ヴィンセントさまが私の手を取って甲にキスを落とす。義手なのに、唇の触れたところからじわりとぬくもりが広がっていくみたいだった。
 分かっている。ヴィンセントさまには跡継ぎが必要なこと。そしてたぶんその跡継ぎをお産みになるのは私ではないこと。だって、ヒューマンペットが子を産むなど、聞いたこともない。どこまでいっても所詮はペットに違いないのだ。

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