ヴィンセントさまがいればそれでいいけれど、嫌われる、というのはいい気持ちではない。あと、たぶんメイド長のレイラも、昔は私のことを嫌いだったと思う。ふつうに話しかけてもらったりするようになったのは、ここ数年のことだ。
「あら、ミーア。どうしたの?」
屋敷をうろついていると、箒を持ったメイドのマーガレットと出くわした。散歩よ、と答えると、マーガレットが思い出したかのように私に近づいてきた。
そして、猫の耳にそっと耳打ちされる。
「ねえミーア。あんた大丈夫なの?」
「大丈夫って、何が?」
「あっ、し、知らないの?」
知らないって、何を?
首を傾げると、あたふたしたマーガレットは、少し悩むそぶりを見せた末に、更に耳打ちする。
「旦那様、今日はお見合いなのよ」
「おみあい?」
「そうよ。お見合い」
知らない単語だ。でも、マーガレットにそんなことは言えないので、私はもっともらしくふうん、と相槌を打って見せた。すると彼女は、怪訝そうな顔をした。
「承知の上なの?」
「……ううん、知らなかったわ」
「じゃあどうしてそんな平気な顔をしているのよ」
「……」
どうも、おみあいというやつは、私が平常心でいられないとマーガレットに思わせるようなものらしい。
マーガレットが、何か言おうとしたとき、別の声が響いた。
「マギー、喋ってないで手を動かしなさいな」
「あっ、レイラさん」
そそくさと私から離れたマーガレットが、これ見よがしに箒で廊下を掃きだした。レイラは私をふんと一瞥し、何も言わずに去っていく。
私も、マーガレットが仕事に戻ってしまったので、とりあえずおみあいの意味を調べようと書斎に向かう。
重たくて分厚い辞書を開いて、おみあいを引く。
「お、み、あ、い」
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