「失礼いたします」
ヴィンセントさまの秘書のアルバートさんが入ってきて、私を見て眉をひそめた。仕事の邪魔をしていると思われたら大変だ。私は慌ててヴィンセントさまの膝を降りた。
「アランさま、先日の件ですが」
アルバートさんが話し出すのを手を上げて止めて、ヴィンセントさまは私に向き直る。
「ミーア、寝室で待っていなさい」
「え?」
「眠たそうな顔をしている」
眠たくは、ない。きょとんとしていると、ヴィンセントさまは私を抱き上げて寝室に続く扉を開けた。
「ヴィニー?」
「すまない。少し込み入った話なんだ」
「……」
だったら最初からそう言ってくれたらいいのに。
仕事のことは詳しく分からないけれど、私に聞かれたくないこともあるのは最近知ったので、そうならそうと言ってくれれば私は邪魔なんかしないのに。
なんだか私がとても分別のないこどもだと思われたようで、ちょっとぶすっとしていると、ヴィンセントさまは微笑んだ。
「ごめんね。すぐに済むから、ここで待っていて」
「……はい」
私をベッドに座らせて、ヴィンセントさまはそそくさと執務室に戻っていく。その後ろ姿をじっと見つめながら、私は小さくあくびをする。ベッドにぺたりと寝そべると、なるほど睡魔がやってきた。
◆
prev | list | next