「はじめは、そう、メアリにそっくりだったから君を買った」
「……」
「だけど、そのうち君自身を好きになっている自分に気が付いた」
ヴィンセントさまの目は優しく細められていて、どうして私は忘れていたのか不思議になるくらいだった。
メアリさまとしてではなく、ミーアを、型番がついていて、そしてその型番にあるまじき欠陥を持ってしまっている私を好きに、ほんとうになってくれたのだろうか。
「私、欠陥品です」
「感情を、持っているから?」
「はい。だからきっとまた、研究所に引き取られてしまいます」
「ヘンリーに口止めしておいた」
「でも」
「いつかまた引き離されたとしても、絶対に何度でも君を見つけ出して見せる」
ヴィンセントさまは、しっかりとした口調でそうきっぱりと言い切った。そして、やはり笑った。
その笑みはとても上品で、けれどどこか悪戯っ子のように輝いていて、私はやっぱり、泣くしかなかった。
「ヴィニー」
「何だい」
「すきです」
「……」
「ヒューマンペットが生意気なことを言っているかもしれません。でも、私はヴィニーのことがだいすきで、だから、ミーアとして愛してくれるのは、とてもうれしいです」
大好きだとか、うれしいだとか、そういう感情を持ち合わせてしまうのはとてもいただけないはずだけれど、それでヴィニーがうれしそうな顔をしてくれるから。
これからはずっと一緒。過去の記憶も、今も、全部全部ヴィンセントさまと一緒。
私は人間じゃないけれど、人間と同じことを感じることができて、そしてその感覚は心に溜まっていく。メモリになんか負けない、心というどこにあるのか分からない強い何かに、ヴィンセントさまとの日々は穏やかにそそがれていく。
私はしっぽをゆらりと揺らし、落ちてくる唇に備えて目を閉じた。
20110124
20150211改稿
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