「エンジニアの立場から言わせてもらえば、ヒューマンペットに心はありません」
「ほんとうにそう思うか?」
「人間と触れ合えば、それだけ人間らしくはなります。でもそれは所詮チップがそういった所作を記憶する、それだけのことです。こう言えば人間は喜ぶ、悲しむ、笑う、怒る……学習によってつくられるものです」
「じゃあ、なぜミーアに感情が生まれたんだ?」
「それは……試作品だったから」

 ヘンリーは少し自信なさ気に声を小さくする。ヘンリーは、研究所側の人間ではあるが、それなりにミーアやほかのヒューマンペットに愛情深く接している。だからミーアが誤作動を起こしたときはそれなりに悲しんだ。

「ミーアに生まれた感情は、きっと彼女のどこかで心として息づいている。そう思わないか」
「……アランさま、希望は持つだけ絶望が大きいです」
「俺は諦めない」
「……」

 ヘンリーは静かにもう一度ため息をついて、報告は以上です、と短く告げて去っていく。
 ミーアはもとは人間だった、ただの少女だ。研究所に引き取られる前は感情も心も持っていたはずだ。脳を技術の結晶に支配されていようが、一度揺さぶられ目を覚ましたものは、ミーアのどこかにきっと生きている。
 俺は、諦めない。

 ◆

prev | list | next