歯を食い縛る。街でオークションがあるときは必ず部下を会場に赴かせ、ミーアが出品されているかどうか偵察をさせている。けれど未だミーアが市場に出回ることはなかった。もしくはほかの街のオークションに出されているのかもしれないが、ミーアを奪った研究所は支局で、そこで生まれたヒューマンペットは輸送費等のコストを考えればほぼ確実にこのテュランにやってくるはずだ。
 目が冴える。とても眠れる気分ではなく、上半身を横たえたまま天井を見つめていると、寝室に備え付けてある電話が鳴った。

「なんだ」
「アランさま、C地区のオークション会場にミーアと思しきヒューマンペットが出品されております」
「……すぐに行く」

 慌ただしく電話を切って、正装に着替えて馬車にも乗らずに屋敷を飛び出した。C地区の会場なら、徒歩で行ける距離だ。速足だったのが徐々に走っていく。往来で人混みを縫うように走る。何度も人と肩を擦り合わせるが、ろくに相手の顔を見もしないで言葉だけで謝罪して足を止めず走った。

「さあお待たせいたしました、試作品の改良版にして最新版! MD-00ロットの猫耳ちゃんでございます!」
「……ミーア!」

 会場に着くと、ちょうどそんな謳い文句を支配人が、おどけた動作をとりながら口走っているところだった。入口付近に待機していた部下に目配せして、小さく鋭くミーアの名前を呼んだ。

「はい、五百万からのスタートです……七百、九百、九百五十……一千……一千でお決まりですか?」

部下から受け取ったボードに金額を書き込んで掲げる。

「三千万が出ました! さあ上はいるか、いないか? ……それでは、三千万での落札になります!」
「アランさま!?」

 想定外の高値をつけたためか、部下が悲愴な声を絞り出すのを視線で黙らせる。

「父の遺産はこういうときのために取っておいたようなものだろう」
「し、しかし」
「街の事業に使うわけにもいかない金だ、使わなければカビが生える」

 とっとと屋敷に戻って金を取ってこい、と尻をせっついた。
 檻の中で首に繋がれた鎖を重たそうにしているミーアから、視線を逸らせなかった。

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