似ているけれど、違う

 彼女に似ている。それだけの理由だった。

「では、一千万でお決まりですか?」

 カンカン、と競りが終了する音がホールに響く。巨額の投資によって、亡き妻に生き写しの、猫の耳と尻尾を持つヒューマンペットの首輪の鍵を手に入れた。
 細いけれどきちんと柔らかそうな身体に添うように流れる緑がかった茶色の髪の毛、薄い紅茶のような大きな瞳を持つ少女。

「名前は何て言うんだい?」
「わたしのなまえはMD-009です」
「MD……ああ、ロットだね。試作品だから00ナンバーだ」
「はい」
「じゃあ、……ミーア、なんてどうかな」
「……」
「気に入らないかい?」
「いいえ。でも、けんきゅうじょはひとの、ええと、えっと」

 手中におさめた彼女は、文法はめちゃくちゃ、語彙は貧困、自分のことを伝えたいのにうまく言えない子供のようだった。

「研究所の人が?」
「なまえはいらないって」
「そう? でも、僕は君を呼ぶときにロットで呼ぶのは嫌かな」
「みーあでもいいです」
「今日から君の名前はミーアだ」

 ミーア、と舌の上で彼女が数度その響きを転がす。名を与えられたことがうれしそうでもなければ、不満そうでもなかった。

「今日から君はここで暮らす。屋敷内は自由に歩いていい。ただ、外に出てはいけない、分かったね、ミーア?」
「はい、ごしゅじんさま」

 メアリにそっくりのつぶらな瞳がじっと見つめてくる。俺は、静かに首を振って彼女を諌めた。

「ご主人さまじゃない。ヴィンセント、ヴィニーだ」
「ヴ、ヴ」
「ヴィニー」
「ヴィニー」
「そう、いい子だ」

 手の中に納まってしまいそうな小さな猫の耳をくすぐってやると、あどけなく笑って見せた。神経は通っているようだった。
 その痩躯を抱き上げれば、きょとんとした顔で見てくる。純粋なその視線は、ほんとうにメアリそっくりだった。

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