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「……いっつもいっつも、りっくんばっかり余裕で、悔しいじゃん? たまには、あたしのほうが余裕になりたいじゃん?」

 ――ああ、なんだ。そういうことか。
 僕の可愛い彼女は、ただでさえ子どもっぽいのを気にしているのに、僕が大人ぶっているのが気にくわなかったみたいだ。
 それで、『今日はあたしが頑張る』、だったわけか。

「別に、いつものすずでいいじゃん」
「良くないもん」

 涙目になって子供みたいに反抗する彼女でさえ、可愛いなあと思ってしまうのだから、もうどうしようもない。

「……わかってないなぁ」
「……何がだよぅ」

 彼女は、まだ何か言いたそうな顔で、頭に置かれた僕の手に、自分の手を重ねた。



 本当に、彼女は分かってない。
 確かに、主導権は僕にあるかもしれないけれど、それより強力な『誘導権』は自分にあること。
 僕が余裕なのなんて、虚勢を張ってるだけで本当にそれこそ『大人ぶってる』だけで、ほんとうはすずを前にしていつもいっぱいいっぱいだってこと。

 さて、ところですず。
 本当にイニシアチブを握っているのは、どっちだと思う?


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