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「おはよう、東堂くん!」
「おはよ、真中さん」

 今日も挨拶できましたー! るんるんで席に着くと、前の席の奈央がくるりと振り返ってため息をついた。

「どしたの?」
「好き好きオーラ出しすぎでしょうが」
「えー? そうかな?」
「なんか、急接近?」
「いやー、実はね」

 冬休みの出来事を話すと、奈央が軽く目を見張った。

「へえー、それはすごい進歩だね」
「でしょ、でしょ、へっへっへ」

 あたしは浮かれていた。昼休みまでは。

「あの、東堂くん、呼んでくれないかな」
「あぁん?」

 昼休み、突然クラスにやってきて頬をちょっぴり染めながらあたしにそう言った女の子を、じろじろと観察する。あたしより背が高くて、きれい系だ。いったい東堂くんに何用。

「東堂くーん。お客さん」
「え? ああ……」

 友達と喋っていた東堂くんに声をかけると、彼は渋々といった体で立ち上がり、その女の子と廊下の向こうに消えた。

「もてる奴はうらやましいよなー、ちくしょう」

 んん?
 東堂くんの友達その一が、うらやましそうに言う。もてる奴はうらやましい? つまり?

「すず、あれ、告白だよ、絶対」
「……えええ!」
「今の今まで気づいてなかったの?」
「気づくわけなかろーが!」

 だってそんな恋愛とかとは無縁の生活送ってきたんだからさあ! えええ、か、可愛い子だったし、東堂くんオッケーしちゃったらどうしよう! あたし失恋じゃん!
 しばらくして、東堂くんが戻ってきた。友達にわらわらと取り囲まれ、詰問されている。あたしは耳をダンボにしてそれを盗み聞く。

「どーだったの?」
「断ったよ」

 ホッ、一安心である。

「好きな子いるし」

 えっ。え?

「誰だよー、気になるだろー内緒にされたら」
「あはは、だって言ったらすぐ学校中の噂になるじゃん、お前お喋りなんだから」
「ぐっ……そうだけどさー」

 好きな子? 好きな子!?

「すず、すずー?」
「すすすすすすすす」
「復活しろー」
「どうしよう! 失恋したよ!」
「え、真中さん、好きな人いたの?」
「いましたとも! ……え?」

 後ろを振り向くと、東堂くんがぼうっと突っ立っていた。心なしか顔色が優れない。

「あの、東堂くん、顔色が悪いよ」
「ああ、寝不足でさ」
「寝不足! なぜ!」
「なぜって……提出今日までの課題やってた」
「課題?」
「もしかして真中さん……」
「きゃはっ。……東堂くん、見せてください」
「いいけど……じゃあ、その代わり真中さんの好きな人教えてよ」
「……奈央に見せてもらおうっと」
「まーなかさーん?」

 にっこり笑った東堂くんに押し切られて、あたしは泣く泣く東堂くんに課題を写させてもらうことに。ああ、失恋決定したのに告白とか、これめちゃくちゃじゃね?

「……」
「で?」

 放課後、今日は部活がないという東堂くんと、教室でふたりきりで課題を写させてもらっている。とってもおいしいシチュエーションなのだけど、失恋したばっかりなので気分は下降気味である。くそっ、聞かなきゃよかった、好きな子がいるなんて。

「……ちなみに、東堂くんの好きな子って、どんな子?」
「聞いてたの?」
「聞こえてきたと言うかなんと言うか……」

 盗み聞きしたなんてとても言えませーん。

「うーん、ちっちゃくて、ちょっと頭悪そうで、寒がりで、可愛いとかきれいってわけじゃないけど、雰囲気のある顔してて……」

 ちっちゃくて頭悪くて寒がり、しか合ってない! あたし顔に雰囲気なんかない! 失恋した!
 東堂くんの好きな人トークは止まらない。なんだか胸がちくちくしてきた。なんだこれは。

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