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 父さんともう会えなくなるわけじゃないけれど、割れたコップの破片たちを見つめて思ったことがある。
 いくら大事にしてたって、かたちあるものはいずれこうなるんだな。
 不思議そうに、僕の言ったことを理解しようとしているすずを見る。唇を尖らせて難しい顔をしているすずだって、今は別の伴侶を迎えている父さんだって、滅多に家に帰ってこない母さんだって誰だって、いつか壊れていなくなる。
 そういうことを悶々と考えていたら、いつの間にか一時間も経っていたわけなのである。
 大事なコップがあんな無残な姿になったことが、そんなしょうもないことを考える程度にはショックだったのが自分でもびっくりで。

「じゃあ、今日新しいの買いに行かない?」
「え」
「元カノと別れたばかりでちょっと気が滅入るかもしれませぬが!」
「もとかの」

 すずが僕を元気づけようとして、明るい声を出してくれているのが分かる。
 変なたとえをしているのは、たぶん本人の意識下のことではないと思うけれど。

「新しい彼女探しに行こうよ!」

 そう言ってから、すずはハッとしたように首を振った。

「べ、別にこれはデートの誘いではないからね!」
「え?」
「でも結果的にデートになるから、それはそれでいいけどね!」
「……」

 すずの頭の中をちょっと覗いてみたい、そう思うのは今に始まったことではない。
 浅黒い肌でも分かるくらいにほんのりと頬を赤く染めて、すずはにこにこ笑っている。

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