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「ねえ、すず」
「何?」
「俺のこと馬鹿にしないの?」
「へっ?」
「マグカップ割っただけでこんなしょんぼりして」
「……。あたしも、こないだあーちゃんにマイ箸折られて激怒したから、似たようなものじゃない?」

 すずの箸を折った? あゆむくん今度会ったら折り曲げよう。どこをとは言わないけど。

「大事なコップだったんでしょ?」
「まあ、うん」

 大事だったことに間違いはないので、そこは頷いておく。コップが割れたのが落ち込んだ原因ではあるけれど、割ったあとで考えていたことのほうがひどく落ち込んだことは、触れないで黙っている。
 すずの右手と僕の左手はしっかりと、接着剤で固めたように結ばれているけれど。この手もいつか離れていっちゃうのかなとか、そういうことを考え出すともう止まらないで不安になってくる。

「どんなデザインがいいかなー」

 すずが僕の「新しい彼女」について思いを馳せだした。

「元カノとは全然タイプが違うやつにしようよ」
「うん」
「日の丸の柄とかどう!?」
「……地味じゃない?」

 だんだん、こうしてすずが僕のコップについて一生懸命考えているのを見ていると、気持ちが穏やかになってくる。すずはまだまだいなくなったりしない、って思う。
 きっといつか別れは、どんなかたちだろうと訪れるけれど、それまで大事にしてあげればいい話だ。あのコップを大事に大事に扱ってきたように。
 そう言えば、しばらく会ってないけど、父さん元気かな。母さんは昨日電話口で疲れていたけど大丈夫かな。

「じゃあ思い切って花柄」
「すず、俺のマグカップだよ?」


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