「え? 病室に、戻るよ?」
「あの二人のこと、邪魔するの?」
「何それ?」
「今頃きっと、ラブラブ中だよ」
「あ、そっかあ……じゃあ、どうしよう?」
もうこれ以上、あゆむくんのことで気を揉むすずが見たくないだけだった。
僕は、すずの手を取って、ロビーを出口に向かって歩き出す。すずがきょとんとした顔で僕を見る。
「どうせ、今日は授業、一コマだけだし、どこか遊びに行く?」
「んー……」
「すず?」
「やっぱり、今日は家、帰る」
「なんで?」
「あーちゃん心配だし、でも邪魔したくないし、遊びに行く気分じゃないの」
「……あ、そう」
いらいらする。
「じゃあ、送ってくよ」
「うん、ありがとう」
「いや、俺も不謹慎だったかな、って反省してる」
反省なんかしてません。
いっそあゆむくん、あのまま目を覚まさなきゃよかったのに、ってちょっと思ってる自分がいやだ。
そりゃあ、もちろん、すずの大事な家族だし、大切には思ってるよ。でもさ、きらいなんだ、どうしても。
たとえば僕があゆむくんと同じ状況になったとして、すずが泣いてくれる確信は持ってる。そんなのは、分かってる。
でもそうと分かってても、弟でも、ほかの男に踊らされる、一喜一憂させられる、そんな風になってるすずを見たくないんだ。
だから僕は、彼のことがだいきらいだ。
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