素直じゃない夜 4


「あれ、潰れた?」
「潰れてないけど心が潰れそう……」
「何言っちゃってんの?」
「田賀よ、頭大丈夫か」
 もう耐えられない。未央が何考えているのか全然分からない。
 さあ、と言った全然酔っていないふうな涼しい横顔も、いいんじゃない、と言った飄々とした顔も、全然何考えているのか分からない。お友達に彼氏がいないふうを装ってるのも、俺を彼氏だと言ってくれないのも。
 もう悲しい。すげえ悲しい。世界滅亡かってくらい悲しい。
「俺、帰る」
「え。なんで?」
「なんかもうすげえ悲しい……」
「頭大丈夫か? 飲みすぎ?」
 普段飲んでもこうはならない俺に、さすがに心配になったのか、隣に座ってた奴がしきりに声をかける。それを振り切り立ち上がると、少しふらついた。あ、飲みすぎてんのかも。未央が気になって、酒の量とか考えてなかった。
「おーい、田賀?」
 ちらりと未央のほうを見た。こちらをその涼しげな目でじっと見ている未央が、何を考えているのか分からない。
「もうやだ! 未央なんか知らん!」
「え? 未央ちゃんが何?」
「俺は帰る!」
 子供みたいに駄々をこねて、俺は飲み代をテーブルに叩きつけて店を出た。コートが遊ぶくらいの強い風が吹いていて、熱を持った頭が少しだけ冷静になる。そして、寒さのせいもあるんだろうけど、涙目になってる自分にも、気付く。
 とぼとぼと歩き出す。
 未央なんか、あいつらと楽しく飲んでればいいんだ。未央なんか、楽しく酔っ払って騒いでればいいんだ。未央なんか、未央なんか、酔い潰れてあの中の誰かにお持ち帰りされちゃえば……。
「それは駄目!」
「何が?」
「へ?」
 そこまで思考が飛んで慌てて踵を返したところに、未央が立ってた。つまんなさそうな目で俺を見ている。

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